従業員の職務内容が同じであれば、同じ額の賃金を支払う、「同一労働同一賃金」が2020年4月からスタートする(ただし、中小企業への適用は2021年4月から)。
正規・非正規の労働者間で生じる「不合理な待遇差」をなくすのが目的で、企業にとっては人件費などの負担増が予想される半面、正規・非正規を問わず優秀な人材確保が期待される。
実施を目前に控えて、帝国データバンクが産業界の対応状況を調べたところ、約6割の企業が準備を進めていることがわかった。2月27日の発表。
企業に負担増、設備投資を控えるかも......
調査によると、自社における「同一労働同一賃金」への対応状況を聞いたところ、「すでに対応済み」が11.7%、「現在対応中」が15.8%、31.7%と最も多かったのは「これから対応する予定」を合わせると、59.2%の企業が「対応あり」と答えた。
6 割近くの企業で対応を進めているが、個別に寄せられた意見では、企業側の負担を危惧する声が多数みられた。
「同一労賃の影響で企業の負担が増える。設備投資を控えるなどの対応が考えられる」(化粧品小売り、東京都)
「同一労賃による労務費負担増などの影響により、倒産する中小企業が増加することも考えられる」(飲食料品・飼料製造、香川県)
また、
「非正規の人材には同一労働を嫌がる者もいて、個別対応が必要」(熱絶縁工事、鳥取県)
と、ひと括りにはできない難しさを指摘する声も聞かれた。
同一労働なのか、「判断難しい」
一方、「対応していない(できない)」という企業は13.9%。「わからない」が26.9%と、4社に1社以上の割合に及んだ。
企業からは、
「同一労働かどうかを明確に判断するのは難しい。今後法改正に対応し具体的にどうアクションできるか不安」(看板・標識機製造、群馬県)
「制度内容が複雑であり、対応に苦慮している」(ソフト受託開発、千葉県)
といった声があがり、実施時期が迫るなかで依然、頭を悩ませている様子がうかがえた。
また、「対応あり」とする企業を規模別にみると、「大企業」が63.3%、「中小企業」が58.1%、「小規模企業」が48.3%。特に、適用を直前に控える「大企業」は「小規模企業」を15.0 ポイント上回った=下図参照。
「小規模企業」の対応状況をみると、「対応していない(できない)」が17.6%で、大企業(10.8%)、中小企業(14.7%)に比べて高くなっている。
「小規模」の企業からは、
「同じ仕事をしても工夫や努力によって他者より結果を出す人がいた場合、そういった人の意欲が失われる」(食料・飲料卸売、大阪府)
「同一労賃が適用されると、正規雇用者のやる気が低下する懸念があり反対」(木製家具製造、福岡県)
「工場の製造ラインで完全に同じ仕事、というような場合以外は当てはめにくいと思う」(かばん・袋物卸売、兵庫県)
といった声が寄せられた。
運送業は以前から「同一労働同一賃金」だった
「対応あり」の企業を業界別にみると、「運輸・倉庫」が72.3%と最も高い。埼玉県の運送会社によると、運送業では以前から多くの事業者で同一労賃の考え方が導入されているという。
次いで、「サービス」(67.5%)や「製造」(61.2%)が、60%台と高かった。「小売り」(58.1%)、「金融」(55.6%)、「卸売」(54.3%)、「建設」(54.0%)、「不動産」(49.8%)―― が続いた。
なお調査は、2020年1月20日~31日に、全国2万3665社を対象に実施し、1万405社から有効回答を得た。回答率は44.0%。