政府は2020年2月25日、新型コロナウイルスのパンデミックを防ぐためにテレワーク(自宅勤務)と時差出勤などの推奨を宣言した。
大手メディアの報道によると、この日までに電通やパナソニック、資生堂、日清食品、NEC、NTT西日本、飲食品情報サイトの「ぐるなび」などが、本社社員などを中心にテレワークの開始を発表している。
しかし、インターネット上では、
「テレワークができるのは上級国民の大手企業正社員だけ」
「いや、この際ピンチをチャンスに変えて働き方改革を進めるべきだ」
と激しい賛否が飛び交っている。ネット上の意見を拾うと――。
「ウイルスは人を選ばないのに、政府は人を選んだ」
ネットの多くの声から伝わってくるのは、「この国は何とかしないといけない」という切羽詰まった気持ちだ。
それは、こんな声に代表される。
「自分は東日本大震災の時に悟った。この国はおかしいと。放射能漏れがある上に公共交通機関がストップしているにもかかわらず、みんなどうにかして出勤しようとしたあの光景。なので、今回のテレワークも無理でしょう。本当になんとかしたほうがいいよ、この国」
というあきらめに似た気持ちだ。
今回のテレワーク推奨宣言、
「ウイルスは人を選ばないのに、政府は人を選んだ。テレワークなんかできるのは一部の上級国民の大手企業社員だけ。多くの下級国民は置いとけぼりを食らう」
という反発が強かった。
まず、そもそもテレワークができない職種の人が圧倒的に多い。
「病気が蔓延するから在宅で勤務しろというけど、もともとそれができるのであれば、誰も出社なんてしない。昔でいう、ごく一部の大手企業ホワイトカラー層しか在宅勤務はできないでしょう。政府は大多数の国民を見捨てたようなもの。私たちは危険な電車で通勤しますが、自分たちは運転手つきのクルマで出勤ですか」
「私は自動車ディーラーに働いていますが、テレワークなんてどの職種でも無理です。営業・経理・整備士どれも出勤してお客さんとクルマを触れないと始まりません。テレワークで済む仕事ばかりで世の中は回るのでしょうか。結局経済は人と人との触れ合いがあってのものだと思うのですが、古いのでしょうか」
「私記者ですが、マスコミもできません。取材してナンボですから。現場の取材なしにニュースなんて成立しません」
「鉄道整備だから現場に行かないと仕事にならん」
「私の職場(総合福祉施設)も、通所の部署は閉所できるけど、入所施設とか特養は閉所になんかできないし、職員も絶対休めない。お隣の医療関係もそうです。お医者さん、看護師さん、在宅勤務はできません」
「製造業なので工場に行かないと。テレワークだかなんだか知りませんが、出勤しなくて仕事できるなら、普段からわざわざ出勤している意味がわかりません。在宅勤務、あるいは出勤日数減らして会社が成り立つなら、なぜ今までそうしなかったのですか。交通費もかからず、満員電車に乗る必要もない...」
「熱が出たら休め」は非正規雇用にとって死活問題だ
政府は、テレワークの宣言とともに「熱を出したら休め」とも推奨したが、時給で働いている非正規雇用の人たちにとって、生計を失う死活問題だという指摘が多かった。
「朝のニュース番組で、識者が『熱っぽくてもすぐに医療機関を受診せず、有給とって自宅待機してください』と言いだした時、怒りに震えました。シングルマザーの私の場合、パートで年次有給休暇が発生するまでに半年の雇用期間が必要ですが、2か月前に転職したばかり。中学と高校の2人の子供を養うだけで手一杯の生活。熱が出たからと休んでいたら、来月からの生活に困ります。結局、政府が見ているのは正社員の人たちばかりなのですね」
「『テレワークしろ』『休め』というが、それができる正社員はいいですが、時給で働いている私たちからすれば、公休有給休暇以外で休めば、その分収入が減り、生活に影響がすぐ出てしまう。そう簡単に休むわけにはいきません」
「現場接客業のパートの私は、上司から言葉巧みに『治るまでしっかり今月は休んでほしい。何も補償はないけどね』と言われて休んでいます。しかし、今月の収入は何もないので、来月が最悪状態。国がその分を補償するか、会社にさせるか、補償問題はもっと議論されるべき。でないと、熱があっても職場に出ていく人がいっぱいでます」
「私は現場サービス業のパートをしています。不特定多数のお客様が屋内に集まるため、約半月の休館が決まり、自宅待機になりました。その間の補償は何もありません。イベントの自粛を要請したり、テレワークを推奨したりするのは簡単でしょう。でも、日給や時給で働く非正規雇用者の収入がその間途絶えることは、上級国民である政治家にはそれがどういう意味を持つのかわからないでしょうね」
ピンチをチャンスに変えて働き方改革を進めよう
一方、今回の政府のテレワーク呼びかけに賛同する意見は、「新型コロナウイルスのピンチをチャンスに変えて、この際、働き方改革を一気に進めよう」という声に代表される。
「こういうときこそ冷静に切り分けが必要だ。物事を『1』か『0』か、で考えていると思考停止に陥る。『ほぼテレワークで仕事ができる人』『テレワークでは仕事ができない人』『限界があるが、仕事の一部はテレワークでできる人』などと最低限3つに切り分けられる。限界があると言っても、フルタイム出社しなければならないという理屈にはならない。時差出勤もできるし、1週間のうち2日だけ出社して、あとは在宅勤務ということも考えられる。交通機関の混雑緩和のために柔軟性を持って協力しよう」
「そうそう。そもそも全員でなくていい。可能な人がやるだけでも、満員電車の緩和、ウイルス蔓延を少しでも抑えることにつながる。コロナに限らず、新型インフルエンザの対策にもなる。今後の働き方の転換チャンスですね」
「年老いた親の介護のためにやむなく離職する人がいるが、在宅でできる仕事を任せることで退職しないで済むこともある。これまで企業はそうした就業形態に及び腰だったが、今回のテレワークをテストケースとし、社内で在宅勤務が可能な業務がどのようなものかを探り、有能な人材の介護離職を防ぐためのステップとしてもよいのではないか」
「同じ意見の人がいた! あと身体障害のある有能人材をテレワークで雇用して自立促進。不妊治療や育児中の人も雇用して少子化の歯止め。地方在住の人材も雇用して東京一極集中の緩和......。テレワークを進めないために、どれだけ有能な人が埋もれているか。欧米では国外からのテレワークさえ可能な会社や政府機関がいっぱいあるというのに」
「ピンチはチャンスとはよくある話。今の状況は日本の企業が全部後回しにしてきたツケが全部表に出てきた。テレワークが可能な会社はテレワークに、テレワークにできない会社は時差出勤に、と一企業でなかなか実現できないことでも業界団体が一斉に動けばできると思う」
「できる環境でもやってない会社がきっとたくさんあります。うちの会社もタブレット支給、VPN(仮想プライベート・ネットワーク)回線引いてあるのに時差出勤すら認めていない。トップが面倒だからやらないだけ。できる会社はどんどんやってほしいです」
実際に導入している会社のトップは、テレワークのメリットをこう語る。
「私は会社を作った時からすべての業務をテレワーク対応できるようにした。そのほうが、オフィスや机、椅子など備品にかける費用が少なくて済み、素晴らしいオフィスも必要ない。その費用を事業への投資に向けられるし、社員の通勤負担も減らせる」
テレワーク「やっぱ自宅での作業は効率が落ちるよ」
ただし、「仏作って魂入れず」のたとえのように、せっかくテレワーク制度がありながら生かされていない会社も少なくないようだ。
「勤務先もテレワークを励行すると言っているが、週何回までとか、端末によって人数が制限されるとか、まったく役に立たない通達になった。去年の夏頃から検証して整備すると言っていたわりに、実践で使えないのでは何の意味もない。使えなかった、という結果だけがわかったよ」
「勤務先はテレワーク可能な職種で、システムも導入されているし、会社も推奨しているのに、取り入れている人があまりいない。時差通勤も同様。ちなみにマスクも支給されたのに半分くらいの人が着用していない。結局、自分の生活を変えたくないのだ。同僚なのに腹ただしい」
また、テレワークを実際にやっている人からすると、意外な「難点」があるようだ。
「実際に仕事を家に持ち込むことがあるけど、家じゃ集中できないよな。眠くなったら寝ちゃうし、すぐ冷蔵庫を開けちゃうし。気持ちは半分有休。管理の目がない分、作業効率がガタ落ちして逆にストレスになっちゃうね」
「いやー、やっぱ自宅での作業は効率が落ちるよ。月の3分の1くらいしか出社する必要ないから自宅で作業していたけど、結局シェアオフィスを借りたもの。だからまあ、普段からわざわざ出勤している意味は、通勤時間使ったとしても仕事がやりやすいからと答えたい。あと、ご近所さんの目がキツイ......」
最後にこんな声を紹介したい。
「私はテレワーク不可能なゴミ収集業務をしていますが、これほど不安を感じる仕事はないでしょう。感染者のマスク、ティッシュなどを回収している可能性は高い。ゴミを捨てる時は必ずゴミ袋を結んでいただき、回収時にウイルスが少しでも飛散しないよう協力してほしい。感染者が一人でも出ると、社員全員が業務できなくなります。少しでも感染を遅らせるためにご協力お願いします」
「すごく大事な意見だと思います。昨夜、主人がゴミ袋を適当に結んでいたので、持っていってくれる人のこと考えなきゃいけないし、これからは自分でゴミセンターに運んでくださいと言われたらできないでしょ?と言ったばかりです。うちがキレイでいられるのもあなた方のおかげです。ありがとうございます」
ちなみに、東京都が都内の従業員が30人以上の企業にテレワークの導入状況を調査(「東京都 多様な働き方に関する実態調査 2019年」有効回答2068社)したところ、テレワークを導入している企業は25.1%。企業の規模別でみると、従業員300人以上の企業は41.2%で導入。100~299人の企業は26.6%、30人~99人は19.2%だった。
(福田和郎)