売れるにはワケがあった! 大ヒット「ポケトーク」開発秘話を明かす

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   グローバル化やインバウンドの増加、東京オリンピック・パラリンピックを控えて需要が伸びている製品の一つが、手軽に使える小型の通訳機だ。

   20社ほどが製品を市場に投入しているが、実情はというと、ソースネクストの「ポケトーク」がシェアの9割以上を占める独壇場。同社の松田憲幸社長が、本書「売れる力」でポケトークを大ヒットさせた発想法を明かした。

「売れる力 日本一PCソフトを売り、大ヒット通訳機ポケトークを生んだ発想法」(松田憲幸著) ダイヤモンド社
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買ってすぐ使えるオンライン端末

   創業は1996年。ソースネクストは、日本IBMのシステムエンジニアだった著者が独立して、パソコンのソフトウエアを企画、製造、販売する会社としてスタートした。かつてはパソコンソフトの販売で「日本一」を誇りながら、その後、経営危機を経験。それを糧にソフトウエアの会社から、ハードウエアを主力に復活を果たした。

   「ポケトーク」は手のひらサイズのAI(人工知能)通訳機。2017年12月に初代モデルが発売され、18年9月に中国語の機能を充実させるなどした「ポケトークW」が登場。19年11月にはカメラで撮影した文字を翻訳できる機能などを追加した「ポケトークS」が出て、ラインアップがさらに充実した。

   ソースネクストによると、初代モデルからのポケトークシリーズ累計出荷台数は2020年2月25日時点で70万台超えた。IT業界のマーケティング調査会社のBCNによると、ポケトークの今年1月時点での音声翻訳機販売台数シェアは94.8%で、シリーズ発売時の17年12月から26か月連続で1位を走っている。

   ポケトークがヒットにつながった理由はいくつかあるが、なかで強調されているのは、AIを使い、そしてオンライン端末に仕立てたことだ。

   オフラインの翻訳機は「使えない代物」というのは、そのタイプのマシン利用経験者のほぼ共通の認識。著者でもある松田社長も同じ意見で、開発をめぐって社内には「オフラインでも使えるようにしたほうがいい」という意見もあったが、それを押し切って、オンライン一本で開発を進めたという。

アプリじゃなく専用機にした理由

   オンライン端末としてさらに評価が高まったのは、インターネットの契約がいらないことだ。通信キャリアとの煩わしいやり取りをしないで済み、毎月の通信料金の支払いもない。それをどう実現したかというと、世界126か国・地域で使えるSIMの同梱によって、製品購入時に通信料をチャージしてもらうようにしており、買ったらすぐに使えて2年間は更新手続きを不要にした。2年後に更新しなくても、Wi-Fiにつないで使うことができる。

   お客と契約を結ぶのは、確実にお金を支払う約束を履行してもらうため。「しかし、これは料金を徴収する側の論理ではないか。利用する側からすれば、どうして契約なんて面倒なことが必要なのか......」と松田社長。ネット接続を購入者任せにしたとすると、現状の10分の1も売れなかったと思うと述べる。

   松田社長は学生時代から英語について熱い思いを持っていて、ソースネクスト創業の6年後から、手のひらサイズの翻訳機を作るためのプロジェクトを立ち上げていたという。

   会社が危機を脱するのと前後して、テクノロジーやITをめぐる環境の進化が加速。AI通訳・翻訳の精度は格段にあがり、いよいよポケトーク開発への機運が高まる。

   製品化の段階には社内外から、「製品化後はスマホのアプリ化しよう」という提案や、「なぜアプリにしなかったのか」という意見が寄せられたという。創業以来、ソースネクストはパソコンソフトで成長した企業。その伝統からはアプリのほうがしっくりするし、アピールもするはず、というのがその理由だ。

「常識破り」は創業以来の社風

   アプリではなく専用機にこだわったのは、スマホではソースネクストが目指す翻訳精度を実現できないと判断したためだ。スマホのマイクでは騒がしい場所では十分に音声を聞きとれず、結果的に適切に翻訳されない。専用機ならクリアに言葉を聞き取ることが可能だ。

   松田社長によると、スマホの進化・改良について要望が多いのはカメラの機能や画質の向上。だから、レンズやスクリーンの進化は非常に速い。マイクはというと、現状でも電話には困らないし、スピーカーにしても外部スピーカーやイヤホンで聴く方法があるので向上させる必要がない。メーカー側にはスマホに関してマイクやスピーカーを進化させるモチベ―ションがなく、おそらく将来にわたってAI通訳機としてはふさわしい機能を備えるには至らないとみて専用機に舵を切った。

   ソフト開発で出発したソースネクストだがいまでは、ハードウエアを大々的に展開する企業に変身。だが、「ウイルスセキュリティZERO」で「0円契約」で顧客の購入ハードルを下げられた「ソフト時代」の経験から、SIM同梱を着想するなど「常識破り」は創業以来の社風。とくにIT系のビジネスパーソンや、起業を計画している人たちにとって、さまざまなヒントが盛られている一冊。

「売れる力 日本一PCソフトを売り、大ヒット通訳機ポケトークを生んだ発想法」
松田憲幸著
ダイヤモンド社
税別1500円

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