安倍晋三首相は2020年2月27日、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、全国の小中高校に臨時休校を要請する、異例の対応に踏み切った。背景には、
「コロナ対策が後手後手に回っている」
「このままでは東京五輪開催も危うい」
との批判が広がり、内閣支持率が下落したことがあるようだ。
しかし、ネット上では働くママ、パパたちから、
「自分の危機管理能力のなさの負担を、親に押し付けるものだ」
などという激しい怒りの声があがっている。ネット上の意見をみると――。
子どもがいない安倍夫婦には働く親の苦労がわからないのか
今回の安倍晋三首相の突然の措置には、怒髪天をつく勢いで批判をあらわにする働くママ・パパたちが非常に多い。こんな声に代表される。
「先ほど、今日が小学校生活最後になるかもしれない子どもを送り出しました。学校だけでなく、市も県もドタバタでしょう。中国の春節前の水際対策を怠り、オリンピックが危うくなるとあわてて決める。しわ寄せはすべて末端に。何党がどうという気はさらさらないけど、赤ちゃんを抱えて不安いっぱいでニュースを見ていた東日本大震災の時。まだしもテレビに映る政治家からは必死さが伝わってきました。それがどうでしょう。イベント自粛要請を出した当日に政治資金パーティーを開く首相補佐官。奥さまをお披露目するためにコロナ対策会議を欠席して新年会に出た環境大臣......。オリンピックなんかより、このわが子に何かあったら一生許せないと思います」
「子どもがいないから子育てしながら働く親の苦労がわからないのだね、安倍首相は。明恵夫人ともども夫婦そろって好き勝手に生きているから。ふつう、いなくても想像力と思いやる心があれば大変さは理解できそうなものだが」
また、今回の措置のドタバタぶりに呆れる人は非常に多い。
「本当に決断できる政治家なら、今年1月の段階で、春節で来日した中国からの観光客数92万人余の入国を規制すべきだった。中国の顔色しかうかがわないで、これが自称『危機管理内閣』の実力ですか」
「対応があまりに遅いと批判されたら、今度は急ごしらえで考えなしの策を押しつけて生活を混乱させる。あまりにも、いきあたりばったりで、本当にちゃんと頭を使っているのか疑うレベル」
「安倍首相は大英断をしたように思わせているが、鈴木直道・北海道知事の全道小中学校休校のやり方をパクッただけ。鈴木知事は報道陣の前で『責任は自分が取る』と言ったが、安倍首相はそんな潔いことは言わない。対策会議ではなく、記者会見で国民に語りかけることもしない。結局、学校や企業、親に丸投げするだけで、具体的な指針も責任の所在も明らかにしなかった」
政治家の奥様方は保育園の下働きをしてみては
突然の一斉休校にさまざまな仕事を持つママ、パパたちが悩んでいる。
「わが家はシングルマザーだし、会社では管理職で年度末の時期だから仕事を長期に抜けるのは不可能。会社もリモートできるはずなのに勤怠管理が云々と言って先延ばしで導入してくれなかった。来週からどうすればいいのか、本気で悩んでいる」
「うちは子どもが小さいので、午前中は留守番させ、少し離れたとこの母に昼から来てもらう。母も満員電車で来ることになるのでリスクがある」
「今回の休校は普通の春休みと違って、子どもたちに外出を禁じているのが心配です。小1、5歳、3歳の3人が家でジッと閉じこもっていられるわけがなく、どう1か月過ごせばいいのか困っています。ゲーム漬けにさせるわけにもいかないし......」
そして、子どもを狙った「犯罪」の心配をする人も少なくない。
「学童保育に入れていない共働き世帯はどうすればいいの? 定員オーバーで入れなかったのです。1年生の子を一人で留守番させるのは心配です。さらにこの報道で、日中子どもしかいない家が多くなることが全国的に知らされたのですから、防犯的にも不安です。心配なのは、小学生だけで留守番している家を狙った犯罪」
「本当にそうですよ!性犯罪者が暴れまわる絶好の機会になるのは間違いないですよね」
働く親たちの中で、特にしわ寄せを受けているのが保育士たちだ。保育園が「一斉臨時休校」の対象から外れたからだ。
「保育士です。園児たちが普通に登園してきますが、私には小学生の子どもがいます。保育士は人数ギリギリで回しているので、私は長期で休めません。しかも頼れるとこもないし。安倍さん、休めるように配慮って? 口だけなら誰でもいえるわ。対象外にするなら保育士派遣するなりなんなり、もしくは基本休園、でも各市に数園、開園している園を作って臨時保育行うとか、対策を練りなさい!」
「私も保育園勤務です。先ほど園で会議がありましたが、同じく小学生の子どもがいる従業員が出勤できなくなりそうです。子どもを預かれなくなければ、多くの保護者が勤務できなくなると思います。しかも保育園は学校以上に濃厚接触する場です。万が一、通勤ルートなどから感染者が出た場合が恐ろしいです。一発で蔓延することでしょう」
「私は派遣の保育士。シングルで、我が子の幼稚園休園になった。幼稚園に預けられなきゃ働けないし、働かなきゃ給料入らないし、保育園は休園じゃないから迷惑かけるし、もうどうしたらいいのかわからない」
「職員の子どもも連れてきて保育できるならいいのにね。それぐらいの便宜図ってほしいよね」
「保育士さん、本当にお疲れ様です。保育士さんへしわ寄せが行くことはすぐ想像がつきそうなのに......。政治家は働く保育士さんが全員未婚子なしと勘違いしているのでは、とさえ思います。政治家の奥様方が、手の足りない保育所の下働きに行けばいいのです。保育士資格は持っていなくても、洗濯とか掃除とか布団出すとか、お手伝いくらいならできるのでは?」
非正規で働く母親の「契約切り」が始まるかもしれない
保育士と並んで深刻なしわ寄せを受けているのが、非正規雇用で働いている人々だ。
「小学校の給食調理員です。パートなので、勤務実働がなくなります。休業補償もありません。こうした働き方に対する配慮は?」
「非正規です。子どもだけにはできないので、私も平日は自宅待機するしかありません。土曜出勤があるので、夫が休める土曜だけの出勤を当分認めてもらえるかお尋ねしようと思っていますが、契約を切られる覚悟はできています。嫌ですが......」
「非正規で働く母親を中心に、契約切りが始まるかもしれませんね。不況が進行しそう」
「私の職場は休校になるから有休を使いたいという派遣の人が多くて、結局今月(2月)いっぱいで派遣で来ている4人が辞めることになったよ。その分、私は逆に残業が増えそうできつい」
「休校を理由に解雇は許さない!って、国が言ってくれればよいのだけどね」
「言うだけじゃなくて国が補償してくれないと...。零細企業なんかは会社の存続も危ぶまれる事態だからね」
今回の緊急事態で、親たちの間で盛んにエール交換が行われている。
「子どもは大事ですから、子どもがいる親の分まで子どもがいない私が働いてシフトに入ったりするのはオッケーですよ。その代わり、休みになった子どもとその親がテーマパークに行ったりするのはマジでやめてほしい」
これは、東京ディズニーランド&シーが2月29日からの休園を発表した28日以前に、全市が休校していた千葉県市川市で、親子連れで遊びに行く姿が見かけられたために寄せられていたコメントだ。
こんなエールに対して、
「ありがとう。こんな気持ちでいて下さる方々がいるからこそ、子持ちの親は安心して働けています。親は何のための休みなのかをよく子どもたちに言い聞かせ家の中で過ごすよう徹底しなければなりませんね。春休みのように、ふつうに出歩いてはまったく意味がない。私も同感です」
「頑張りましょうね! 私も子どもたちが巣立ち、旦那と二人だけ。シフトを修正し、朝から夜までの勤務になることでしょう。たぶん乗り越えられると思います。ただ、春休み気分で買い物に来られても困りますよ。子持ちの方々をカバーしている私たちのストレスになりますから」
働くママの引き上げで介護現場が危機的状況に
一斉休校は、特に働くママが多い職場に打撃を与えている。特に多いのが介護の現場だ。
「まさか安倍総理によって介護現場が危機的状況になるとは思わなかった。介護福祉の現場って、小中学生のママさんで成り立っている。それが来週(3月2日)から突然出勤できなくなるとしたら、回らなくなる。特に通所系は大打撃。常勤2人に非常勤5人なんてざら。非常勤職員が全員休めば休むしかなくなる。デイサービスやデイケアが利用できなくなれば、在宅介護のご利用者の家族も仕事に行けなくなり、介護休暇をとる必要になる。独居の人はヘルパーをとることになるが、そのヘルパーも小中学生のママさんで......ってどうすればいいんだ!」
「政府の要請は、介護現場の対策を根底から破壊するものです。現場から人員がごっそりいなくなるのですよ。更にデイサービスはご利用者の生活を維持するために必要なサービスです(入浴・食事・衛生管理など)それが機能しなくなる可能性が高くなった。介護だけでなく医療現場もそうです。それくらい、ママさんで成り立っている職場なのですよ」
ほかの職場からも、悲痛な声が聞こえる。
「飲食店の店長です。パートさん全員休まれると営業できないです。勝手に休業したくてもチェーン店だから無理です。このままだと、100席以上あるお店でキッチン1人フロア1人とかの営業になってしまう」
この訴えには、こんなエールの声があった。
「4月まで無職だから手伝ってあげたい...。子ども大きいし、飲食店の経験あります」
一斉休校の先輩、北海道もビックリを通り越して唖然
学校も大混乱に陥っている。
「子供の安全をと言いつつ、感染したらもっと重症化しそうな接触密度がはるかに濃い学童は朝から開けろとか意味不明。結局休めない親の子どもはそういうところに追いやられて感染リスクが増すだけ。学童のスタッフにだって子どもがいるのに、来週(3月2日)からいきなり7時出勤要請って無茶苦茶でしょう」
「北海道の中学教員です。昨日(2月27日)から休校で、1週間後までの流れを綿密に会議した矢先に全国休校要請。しかも長期。受験前に1度も生徒に会えない。3年間もった生徒との最後が26日のホームルーム。先に休校に入っていた私たちはビックリを通り越して唖然としています。受験や生徒が長期で家庭にいることのリスク(留守番など)、共働き家庭への配慮があまりにも欠けています。これからどのようなお達しがくるのか現場は大混乱です」
「北海道のご苦労、お察し致します。大阪もこれから高校受験です。本当に大混乱です。あまりにも急すぎます。やるにしても少し余裕をもった要請が出来ないのか」
「高校教員です。明日からの期末テスト。来週の年度末実力テスト。それをもとにする成績内申...... どうするのさ。再来週は県立高校入試も。総理は受験もしてないから(編集部注:小学校から大学まで成蹊学園)、成績とか評価の大切さなんて想像もつかないでしょうね」
もっとも、非常に少数派だが、安倍首相の「英断」に理解を示す親もあった。
「うちも共働きです。コロナで子どもの命が危険にさらされるぐらいなら、1か月くらいはなんでも我慢します。小学高学年以上ならお留守番できませんか。昼食も朝作って仕事に行けばすむ。保育園や学童は休まないわけだから問題なし。うちは小学5年ですが、お留守番させますよ」
「子どもが休むからって一緒になって休む必要はないと思うよ。未曾有の一大事なのだから、留守番させればいい。甘やかしすぎだよ。この際、家の中ことを色々やらせたら?ゲームやスマホばかりさせてないでさ」
ただし、こんな声が――。
「今は有事。友人や親兄弟に頼むしかないよ。戦時中のような対応が必要だ。なんでも国には頼れないことだって緊急事態にはあるさ。まあ、もっと言えば、弱者切り捨ての政党を選び続けてきたことの弊害であるけどね」
(福田和郎)