当初、メディアの中には新型コロナウイルス感染が広がる日本を「危険地域に指定すべきだ」「クルーズ船はウイルス培養船だ」と冷笑していた韓国に新型肺炎が爆発的に広がっている。
ついに感染者数、死亡者数ともに日本を上回り、世界2位の感染国になってしまった。その背景には、新興宗教がかかわっているという。いったいどんな教団か。その正体を韓国紙から探ると――。
感染者が国会を歩き回り「ひっくり返った」政界
韓国で爆発的に新型コロナウイルス感染が広がり、ついに日本を追い越して中国に次いで世界2位になったことを、聯合ニュース(2020年2月26日付)「新型コロナ感染者1000人超 9割以上が大邱・慶尚北道」が、こう伝える。
「韓国の中央防疫対策本部は2月26日、この日午前9時までに新たに169人の感染が確認されたと発表した。韓国での感染者数は計1146人となり、1000人を突破した。また、感染者から新たに1人の死者が出て、韓国での死者は11人に増えた。感染者は、新興宗教団体『新天地イエス教会』の大邱(テグ)市にある施設での礼拝に参加した信者と、慶尚北道(キョウサンプクト)・清道(チョンド)郡の病院の患者を中心に大邱・慶尚北道地域に集中している。新たに確認された感染者169人のうち、153人は両地域で発生した。これにより、大邱・慶尚北道地域での感染者は計944人となった」
新たな感染者の9割以上が大邱・慶尚北道地域に集中しているが、これらの感染の元凶とみられているのが「新天地イエス教会」という宗教団体だ。
この宗教団体については、のちほど説明するが、1月20日に最初の感染者が出て以来、2月20日まで小康状態だったが、21日以降、一気に倍々ゲーム的に感染者が急増。国会、裁判所、学校、保育園、博物館、スポーツ施設などが全面的に閉鎖される事態になった。
特に、4月に総選挙を控えて文在寅(ムン・ジェイン)政権の与党・共に民主党と野党の保守系各党が激しく論戦を繰り広げていた政界は「ひっくり返った」(ハンギョレ紙)というパニックに陥った。2月19日に国会の討論会に出席した参考人の1人が感染者とわかったからだ。参考人は、国会議事堂本館だけでなく、挨拶のために各党控室、議員会館まで訪問していたからたまらない。国会周辺を全面消毒する大騒ぎになった。
統一教会より「脅威」に! その名も「新天地イエス教会」
感染症には「スーパースプレッダー」という言葉がある。爆発的に感染拡大を引き起こす人物、あるいは感染源のことである。なぜ「新天地イエス教会」が「スーパースプレッダー」とみられているのか。
ハンギョレ(2020年2月21日付)「清道デナム病院で新天地教祖の兄の葬儀...スーパースプレッディングの始まりか」がこう伝える。
「2月20日の1日だけで大邱(テグ)・慶尚北道で51人の追加の感染者が発生した。そのうち半分を超える28人が新天地イエス教会の大邱教会から出た。一方、慶尚北道清道郡の清道デナム病院では新しい感染者が15人発生した。この清道デナム病院は新天地イエス教会の教祖のイ・マンヒ氏の兄が先月末に死亡して葬儀を行ったところだ。同じ時期に31人目の患者が清道でナム病院を訪問した事実を確認した保健当局は、大邱・慶尚北道で新型コロナウイルス感染症が大勢に拡散された震源地が新天地イエス教会である可能性を集中的に調べている」
つまり、まず新天地イエス教会の大邱教会から感染者が発生、その感染者が教祖の兄の葬儀が行われた清道デナム病院を訪問したため、病院に院内感染が広がった。こうして、新天地イエス教会の大邱教会と、清道デナム病院という2つの震源地がスーパースプレッダーとなり、大邱・慶尚北道地域がまるで中国・武漢のように新型コロナウイルス感染症が蔓延する地域になったというわけだ。
新天地イエス教会の公式ホームページを見ると、「海外では米国ワシントンDCとウガンダ、中国の内モンゴルと英国、そして中国武漢に教会を設立した」とある。この武漢の教会を信者が行き来して新型コロナウイルスを持ち込んだ可能性が高い。新天地イエス教会は、ホームページを見ても、信者が密集して礼拝を行うのが特徴だ。だから信者間で感染しやすい。また、韓国内に2百数十か所あるといわれる教会施設を信者は一つひとつ歩き回るという。新型コロナウイルスをまき散らしているのだ。
ところで、これほどの感染状況を引き起こした元凶と目される「新天地イエス教会」とはどんな宗教団体なのだろうか。
ハンギョレ(2020年2月22日付)「新型肺炎拡散発火点『新天地』ってどんな教団?」が、詳しくこう報じている。
「『新天地』は、宗教界では既に知らない人がほとんどいないほど広く知られている。特にプロテスタント系が最も警戒する教団だ。プロテスタントは、2000年代以前は主に文鮮明(ムン・ソンミョン)教祖の統一教会(編集部注:世界平和統一家庭連合、旧名称・世界基督教統一神霊協会)を最も警戒していたが、その後は最も警戒する対象が新天地へと移った。それほど新天地の宣教に脅威を感じているということだ。したがって正統教会は新天地を異端と規定している。数年前からはカトリックも新天地警戒令を発令している」
ほかの教会にスパイ信者を送り込み、乗っ取る手口
ハンギョレによると、「新天地」の正式名称は「新天地イエス教証(あか)しの幕屋聖殿(まくやせいでん)」。自ら「新天地イエス教会」と略して呼ぶ。「新天地」はイ・マンヒ総会長(89)によって1984年に設立された。「新天地」は「聖書通りに創造され現れた約束の聖殿」とし、イ・マンヒ総会長のことを、黙示録を証明する「約束の牧者」と紹介する。要するに、イ・マンヒ総会長は「イエス・キリストの再臨者」というわけだ。
ハンギョレが「新天地」の問題点をこう続ける。
「プロテスタントが最も警戒するのは新天地の布教のやり方だ。新天地は正統教会やカトリック教会を草刈り場と認識し、いわゆる『刈り入れ屋』という秘密要員を既存教会に浸透させ、信者を惑わせて引き抜くというのだ。特に、牧師の不正などをでっち上げて仲間割れを引き起こし、牧師を追放した後に教会を丸ごと乗っ取る手法を使っているという。だから、プロテスタント界は新天地異端対策委員会を設置し、かなりの数の教会が『新天地アウト』『新天地アウト』などの標識を教会の入口に掲げて、信者に警戒を促している」
問題なのは、新天地にはこうした「特殊布教」(刈り入れ)の訓練を受けた信者だけでも5万~10万人おり、彼らが他の宗教団体の教会だけでなく、無料英語教習所や塾・予備校などを根拠地にして小中高生や大学生を布教したり、職業軍人たちを布教対象にしたりしていることだ。
このため、在韓米軍の軍人・軍属にも信者がおり、在韓米軍のロバート・エイブラムス司令官は2月20日、米軍基地内にも感染が広がっている恐れがあるとして、新天地の教会を訪問した兵士や基地で働く韓国人労働者に自宅隔離を命じ、基地内の学校や保育施設を閉鎖したほどだ。
さらに問題なのは、他の宗教団体に潜入する「刈り入れ屋」の信者たちは潜入した宗教団体と二重教籍となっている場合が多く、新天地がその名簿を提出しないため、韓国政府も把握できないことだ。「刈り入れ屋」は既存教会の日曜礼拝に参加しないと新天地教徒と疑われるため、感染した状態で既存教会に来る可能性が高く、そうなれば感染が大きく拡散する恐れがあるのだ。
キリスト教徒が全人口の1%しかいない日本に比べ、韓国では全人口の約30%がキリスト教徒だ。ちなみに文在寅大統領もカトリック教徒である。多くのキリスト教教会に潜入した「刈り入れ屋」が日曜ごとに開かれる礼拝に参加して、一気に感染を広げた可能性も指摘されている。
中国から「危険だから韓国に行くな」と言われて悔しい
ハンギョレが続ける。
「イ・マンヒ総会長は、2月21日に携帯電話を通じて信者に送った「総会長からの特別手紙」という特別メッセージで、『今回の病魔事件は新天地が急成長したことを悪魔が見て、これを阻止しようと起こした悪魔の仕業だ。私たちは神の種から生まれた神の息子であり神の家族であるので、この全ての試練で迷いに打ち勝とう』と訴えた」
しかし、さすがに韓国国民の猛非難にあって、信者たちに「当局の指示に従い、しばらくは集会を自粛し、通信だけで連絡を取り合う」よう促したのだった。また、信者名簿も当局に提出したが、韓国メディアの多くは「リストの真偽や、一部信徒の情報を隠したり隠蔽したりする可能性まで前提にして調査する必要がある」(朝鮮日報)と懐疑的だ。
こうした事態に、朝鮮日報社説(2020年2月25日付)「中国が『韓国に行くな』だなんて、世の中こんなことが起こるとは」は、こうぼやいている。
「釜山の中国総領事館が2月23日、自国の公式SNSで『まだ韓国の学校に来ていない中国人留学生たちは、韓国に来ることを延期するよう勧告する』と呼び掛けた。中国にいるよりも韓国に来るほうがコロナに感染する可能性が高いので、韓国には来るなという意味だ。(文政権が)中国の顔色をうかがい、防疫のドアを開けっ放しにした結果、中国が韓国を危険な国として扱うようになってしまったのだ」
「中国共産党の宣伝メディアはこの日、韓国や日本などのコロナ事態に言及し『予防措置が遅れていて心配だ。中国に学べ』と主張した。初期の防疫失敗によって世界的な災害を招いた中国が被害者を非難しているのだ。総選挙を前に習近平主席の来韓ショーをしたいからという理由で、われわれに感染症をうつした中国までわれわれを防疫対象にし始めた。世の中にどうすればこんなことが起こるのだろうか」
(福田和郎)