「学習気質」維持し続ける難しさ
ポラロイドは「完全に市場の存在を知らなかったわけでも無視をしていたわけでもなく、可能性に気づいていたけれど踏み込むタイミングでジレンマに陥り意思決定を間違えてしまった」ということ。当時は「存在しない市場」であるデジタル市場。存在しないから、その規模も成長率も利益率についても測る手がかりなく、分析が可能なアナログ市場での継続を選んだものだ。
著者はこう指摘する。「ポラロイドは『分析』にこだわるのではなく、失敗を前提とした『学習』に意識を向けるべきだった。つまり、新たな技術を一旦世に出した上で、市場の可能性を学習していく、という姿勢」だ。
ジョブズが「国宝」と敬意を表した、ポラロイドの創業者、ランドは「学習」に励む人物だったが、同社の「学習」の文化は時とともに薄れ、徐々に「分析重視」が優位になったという。「このポラロイドの事例は、大企業になりながらも『学習気質』を維持し続けることの難しさを感じさせる」と著者。創業者のランドは1980年にポラロイド会長を辞任。同社株を売却した資金でローランド研究所を設立し「1日1実験」という研究中毒の生活で、ポラロイドとは無縁の余生を過ごした。ローランド研究所には、ジョブズも通ったといわれる。
こうした「ポラロイド編」のように、本書では縁遠く感じる大企業の「倒産」をめぐり、多くの人にとって示唆に富むストーリーに仕立てて伝えてくれる。
「世界『倒産』図鑑 波乱万丈25社でわかる失敗の理由」
荒木博行著
日経BP
税別1800円