少子高齢化による人口減少の進展に伴う土地利用ニーズの低下などを背景に、所有者不明土地や管理不全の土地が増加している。そうしたなか、所有者不明の土地に対する取り組みが動き始める。
政府は2020年2月4日に土地基本法改正案を閣議決定した。改正案では、土地の適切な管理を所有者の責務とすることなどを盛り込んだ。
所有者不明の土地、九州を上回る広さに
土地白書2019年版によると、2013年の土地基本調査では、世帯が所有する空き地面積は2003年から13年までの10年間で、681平方キロメートルから981平方キロメートル(空き地率8.6%)に広がっており、1.4倍に増加している。
ちなみに2013年の住宅・土地統計調査によると、全国の空き家の件数は、約820万戸(空き家率13.5%)となっている。急速な少子高齢化が進展する中で、今後も相続の発生などによって、さらに増加することが見込まれている。
また、2017年12月の土地問題研究会の最終報告では、地籍調査実施地区のデータなどを基に所有者不明土地(不動産登記簿から土地所有者が確認できない土地)を推計すると、全国の所有者不明土地の面積は2016年時点で約410万ヘクタール(九州の土地面積約367 万ヘクタールを上回る水準)で、2040年には約720万ヘクタール(北海道本島の土地面積約780万ヘクタールに迫る)にのぼると推計されている。
こうした状況に対して、政府は2016年、2017年、2018年の「骨太の方針」で土地対策の見直しや所有者不明土地等に対する施策を打ち出しているが、そのいずれもが法律や態勢の整備が中心で具体性に欠けるものだった。
「骨太の方針」で打ち出されたものの......
所有者不明の土地などは、
(1)土地需要の減少と資産価値の低下
(2)相続した土地を利用する必要性の低下
(3)土地と居住地の遠隔化
(4)土地の売却・貸付けの困難化
(5)土地の利用・保有意識の低下
(6)法定相続人等による共同相続・共有・遠隔地居住
といった土地所有形態の増加などの要因により増加を続けている。
しかし、所有者不明の土地は、土地の利用・管理・処分ができないうえ、所有者探索に多大の手続コスト(時間・労力・費用)を要する。そのうえ、所有者がわからない土地は手入れがされず、周辺の生活環境が悪化する原因となるほか、防災やインフラ整備の障害ともなる。
今回の土地基本法改正案では、「土地の適正な利用・管理の確保」と「地籍調査の円滑化・迅速化」などが行われる。
「土地の適正な利用・管理の確保」では、土地所有者等の土地の適正な「利用」「管理」に関する責務(登記等権利関係の明確化、境界の明確化)を明らかにし、国・地方公共団体の講ずべき施策について土地の適正な「利用」「管理」を促進する観点から見直すとともに、土地政策全般の政府方針(閣議決定)として土地基本方針を創設する。
「地籍調査の円滑化・迅速化」では、2020年度からの新たな国土調査事業10か年計画を策定するとともに、所有者探索のための固定資産課税台帳等の利用、所有者等からの報告徴収、地方公共団体による筆界特定の申請等の調査手続の見直し、都市部における官民境界の先行的な調査や、山村部におけるリモートセンシングデータを活用した調査といった地域特性に応じた効率的な調査手法を導入する。
これにより、政府は土地所有者に適正な管理の責務があることを明確し、所有者不明土地の増加を抑制し、都市開発や公共事業の迅速化につなげたい意向で、年内の施行を目指している。
今回の改正は、本格的に土地所有者の管理の責務を明確化するもので、これまで「お題目」だった所有者不明土地問題の解決が一歩でも前進することを期待したい。(鷲尾香一)