離職防止、採用、モチベーション、スタッフ教育、問題社員に世代間ギャップ......。
小さな会社や店舗が抱える悩みのほとんどは「人」に関することです。では、どのようにして対処法を考えることが望ましいのでしょうか。
「人材マネジメント一問一答 」(岡本文宏著)商業界
お店の格を決めるのは店長
数年前、東京・渋谷109のカリスマ販売員が話題になったことがあります。カリスマ販売員とは、購買に影響力のある店員のことで、身につける服がブームになり、すぐに売切れてしまうなどの現象が見られました。
以前、新宿にある某百貨店メンズ館のデザイナーズブランドで、次のような接客を受けたことがあります。販売員のいい加減さにカチンときてしまった悪い例です。
わたし「Lサイズはないですか? 身長が184センチあるので、Lが欲しいのですが......」
販売員「あるのは、MとSです。インポートは大きめですから大丈夫ですよ」
~試着する~
販売員「タイトな感じで似合ってますよ! ジーンズにねじ込む感じがいいですね!」
わたし「やっぱり、Mだと袖が短い気がします」
販売員「せっかくなので、Sにも袖を通してくださいね~」
わたし「かなりキツイのですが...... 丈が短いですww」
販売員「お客様でしたらSでもMでもLでもお似合いになると思いますよ!!!」
わたし「......(無言)」
じつは、販売員は副店長の肩書きだったので、店長に次ぐポジションでした。たまたまかもしれませんが、不快な接客から足が遠のいてしまったことを覚えています。
「一国一城の主」といえば聞こえはいいですが、責任が重いのが、「店長」という職責です。なかでも、とくに気をつかうのが、スタッフのマネジメントではないかと思います。
著者の岡本文宏さんは、アパレル専門店のマネージャーをしていた頃、やる気を感じない部下には、「やる気を出せ」と叱咤激励をしていたそうです。ところが、部下を鼓舞してモチベーションがアップしても、岡本さんがいなくなるとすぐに元の状態に戻ってしまうということが続きました。
インセンティブ付与も効果は限定的
販売キャンペーンなどの成績上位者に報奨金を出したり、時給を上げたりと、金銭的なメリットをちらつかせて、スタッフのモチベーションを高めようとするマネージャーもいます。
しかし、それだけでは根本的な解決にはなりません。インセンティブが増えたら、やる気は高まりますが、しばらくすると前の状態に戻ってしまうからです。
岡本さんは、販売キャンペーンの上位になり、インセンティブの対象となるスタッフは仕事に対して積極的になると言います。ところが、対象とならないスタッフはインセンティブにメリットを見い出せないと指摘します。
インセンティブなどの報奨金で士気を高めて、やる気を上げても、継続することが難しく、さらにコストがかかってしまいます。
では、どのような対処が望ましいのでしょうか――。それは、承認欲求を満たすことです。たとえば、周りから必要とされ、価値ある存在と認められることで承認欲求が満たされるといえばわかりやすいと思います。
岡本さんは、承認欲求について、「貴方がいるから本当に助かっている」というメッセージを発信することが大切だと指摘します。これで、やる気のスイッチがオンになり、個々にアプローチを行うことで、人間関係構築がはかれるようになります。
店長は覚悟をもて
店長が現場の第一線に立ち、プレーヤーとして動くことになると、短期的には業績アップにつながる場合があります。ところが、店長が一人で作れる売り上げには限界があることや、抱え込むことで他業務に支障をきたす場合があるので注意が必要です。
そこで、必要となるのが店づくりに積極的に貢献してくれるスタッフの存在です。大切なことの一つが「仕事を任せる」ことです。任せることでスタッフのやる気がアップし、責任感が増し、育成のスピードが増すと、岡本さんは言います。
現場に任せることで仕事への興味とコミットメントが増して、業務に主体的に取り組むようになっていくのです。
本書は、店長、経営者、リーダーなどの、役職者の「悩み」にフォーカスしています。誰にも相談できず、孤軍奮闘している彼らに解決のヒントを示唆しています。(尾藤克之)