保守政権で「ブラックリスト」に入っていたポン・ジュノ監督
さて、「パラサイト」の快挙、韓国国民は熱狂的に喜んでいるが、政界では生臭い風が吹き始めた。文在寅大統領のはしゃぎすぎの裏側を聯合ニュース(2020年2月10日付)「文大統領『国民に勇気』 『パラサイト』アカデミー賞4冠を祝福」がこう伝える。
「文在寅大統領は2月10日、自身のフェイスブックで、『パラサイト』の4冠は、『困難に打ち勝とうとする国民に自負心と勇気を与えてくれた。韓国映画が世界の映画と肩を並べ、新たな韓国映画の100年を始めることになり非常にうれしい』と投稿した。新型コロナウイルスの感染が拡大する状況での受賞は意味深いとの考えを示したものだ」
聯合ニュースは、さらに文大統領が、
「韓国の映画関係者が思う存分想像力を駆使して、心配なく映画を製作することができるよう政府も協力する。ポン・ジュノン監督の次の計画が気になる。もう一度受賞を祝い、国民と共に応援する」
と強調したことに注目した。
「これは、朴槿恵(パク・クネ)前政権で作成された、政権に批判的な芸術家や俳優ら文化・芸術界関係者や団体を掲載した『ブラックリスト』にポン・ジュノン監督が記載され、活動が制約されたことを考慮した発言とみられる」
というのだ。
じつは、保守系の朴槿恵政権と、その前の李明博(イ・ミョンバク)政権では国家情報院が政権に批判的で左寄りの文化人・芸術家たちの「ブラックリスト」を密かに作っていた。そして、保守系メディアやテレビ局などを通じて、新聞・雑誌への寄稿、番組出演など活動の場を制限させていた。「ブラックリスト」の存在が明るみに出たのは、左派の文大統領が政権を奪ったあとの2017年9月だ。
ポン・ジュノ監督は、日本でも大評判になった映画のほとんどが「危険である」としてリスト入りした。たとえば、こうだ。
「スノーピアサー」:気象異変で凍りついた地球が舞台、生き残った人々を乗せた列車が延々と走る中で繰り広げられる人間ドラマ。限られた空間の中で先頭車両と最後尾車両に分かれた階級の対立を現代世界の縮図として描く(リスト入りの理由=市場経済を否定して反抗を煽っている)。
「グエムル-漢江の怪物」:在韓米軍が汚染水を川に流したため、巨大な両生類の怪物が出現、人々を捕食する。軍も警察も退治できず、民間人の一家だけが戦う(反米意識を煽り、政府の無能ぶりを強調している)
「殺人の追憶」:軍事政権下で実際に起こった未解決の連続殺人を捜査する刑事たちを描く(警察を汚職集団と描写、公務員に対する信頼を損ねている)
といった按配だ。