成功した起業家やスポーツ選手、芸能セレブが「起業」に投資するには理由がある......

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   雇用や働き方をめぐる社会の変化に合わせ、ますます注目が高まる「起業」。それに合わせて、創業後間もないスタートアップ企業を金銭面で支援する「エンジェル投資」が空前のブームになっているという。

   起業に成功して資金面で潤沢になった起業家たちがその主役となり、「資金循環」を作り出しているばかりではなく、スポーツ界、芸能界などからも参入が相次ぎ、さらにはサラリーマン投資家も増えている。

「エンジェル投資家とは何か」(小川悠介)新潮社
  • 投資した企業が成長すれば、リターンは大きい
    投資した企業が成長すれば、リターンは大きい
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スタートアップ「第4次ブーム」の真っ只中

   エンジェル投資家とは、創業間もない企業に個人で資金を提供する投資家のこと。その言葉は、英国で演劇などのスポンサーになっていた資産家などの個人がそう呼ばれていたことに由来する。歴史的にエンジェル投資は欧米では社会や文化に早くから根付いたものであり、ビジネスをめぐっては米国では約30万人の投資家が活動しているという。

   日本では、戦後の高度成長期などを通じた成功体験から、ビジネスについて大企業主義から抜け出せず「起業後進国」「起業不毛の国」ともいわれ続けてきた。

   ところが、グローバル化などに伴う産業界の変化で、起業を取り巻く環境が様変わり。商店や個人事務所などのスモールビジネスによる独立から、起業へと注目が移り、いま日本のスタートアップは「第4次ブーム」とされる活況の中にある。その推進力の大きな部分を担っているのが、「エンジェル投資家」なのだ。

   本書「エンジェル投資家とは何か」は、その実情を報告。今後、産業界にどのような影響を与えていくのかを考察した一冊。冒頭、エンジェル投資家の存在が層や幅を広げていることを示して、読者の関心をつかむため、多くの人にとっては「意外」と思われる人物が紹介される。

   サッカーの本田圭佑選手だ。本田選手は2016年にスタートアップ企業への支援を始め、すでに50社以上に投資。国内では代表的な「エンジェル投資家」の一人に数えられる。

スポーツ選手、芸能人に多くのエンジェル投資家

   本田選手は各国でサッカー教室を開設しているほか、アジアの途上国で学校建設に乗り出すなど活動の範囲を広げるなかで自身の寄付だけでは限界があることに気づき、エンジェル投資を始めた。

   「投資」ならば、リターンを次の投資に回したり、寄付にも使えたりする。起業家を支援することで、自分が目指すものに近付くことを早めることも可能だ。そこで2016年に個人投資会社を設立。ポケットマネーの数億円を運用資金に、国内スタートアップ企業を対象に1社当たり500万円~1000万円を投資する。

   米国ではスポーツ選手、芸能人など著名人がスタートアップ企業に投資する「セレブ投資」が活況。プロバスケットボール(NBA)のシャキ―ル・オニールさんや歌手のジャスティン・ビーバーさん、俳優のアシュトン・カッチャーさんらが知られる。

   カッチャーさんは、民泊予約で急成長した米エアビーアンドビー、インターネット電話の米スカイプなど多数の成功企業に投資し巨額の収益を得ている。

   本書では、本田選手以外にも、スポーツ界や芸能界から数多くのエンジェル投資家があらわれていることを紹介。2012年の引退後から投資に乗り出したという陸上の為末大さんは、スポーツ関連を中心に「シード期」(創業期)にある10社ほどに、1社当たり数百万円を出資。また、お笑いコンビ「ロンドンブーツ1号2号」の田村淳さんが芸能界きってのエンジェル投資家であることに触れ、その活動も紹介している。

「上場」が必ずしも資金回収の手段ではなくなった

   スポーツ界、芸能界の人たちにエンジェル投資を広めたのは、本来のエンジェル投資家だ。もともと、その成り手は過去に起業して成功した富裕層。ビジネスで培った目利きの力を生かして、銀行などに代わり、評価が定まらない成長初期の企業に自己資金を提供する。

   「シード期」や事業化期の「アーリー」に区分される企業が主で、自身の判断でリスクを負って投資するが、資金を提供するだけではなく起業経験を基にコンサルタントとしての役割も担うことがある。

   外部から資金を集め、それを会社として運用するベンチャーキャピタル(VC)とは異なり、返還の期限はなく、個人がじっくり腰を据えて投資できるのも、投資する側にとっても、受ける側にとっても強みとされる。

   資金提供の見返りは株式など。事業が成功し会社が成長すれば株式の評価が上昇し、例えば時価総額1億円の企業の株式を1000万円の投資で10%保有していた場合、時価総額が1000億円のユニコーン企業(創業10年以内、評価額が10億ドル以上、未上場、テクノロジーという4つの条件を備えた企業)に成長すれば、手元の株式の価値は100億円に跳ね上がる。

   従来は株式上場(新規株式の公開=IPO)が起業の「ゴール」とされたが、最近では大企業への売却をポジティブに受けとめる起業家が増えた。大企業が持つ優秀な人材などのリソースを活用できるなどが理由。また、主幹事の選定や上場審査といった準備に数年を要するIPOに比べて、大手企業の傘下入りであれば創業間もないスタートアップでも可能だ。投資家が資金を無事に回収する「イグジット」(出口)戦略も、多様化しているわけだ。

   会社の売却で大金を手に入れた20~30代のミレニアル世代の若者が次から次と生まれ、彼らがエンジェル投資家になって後進の起業家を支援するという新たな循環が生まれており、エンジェル投資家の輪は今後さらに広がりそうだ。

「エンジェル投資家とは何か」
小川悠介著
新潮社
税別720円

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