「上場」が必ずしも資金回収の手段ではなくなった
スポーツ界、芸能界の人たちにエンジェル投資を広めたのは、本来のエンジェル投資家だ。もともと、その成り手は過去に起業して成功した富裕層。ビジネスで培った目利きの力を生かして、銀行などに代わり、評価が定まらない成長初期の企業に自己資金を提供する。
「シード期」や事業化期の「アーリー」に区分される企業が主で、自身の判断でリスクを負って投資するが、資金を提供するだけではなく起業経験を基にコンサルタントとしての役割も担うことがある。
外部から資金を集め、それを会社として運用するベンチャーキャピタル(VC)とは異なり、返還の期限はなく、個人がじっくり腰を据えて投資できるのも、投資する側にとっても、受ける側にとっても強みとされる。
資金提供の見返りは株式など。事業が成功し会社が成長すれば株式の評価が上昇し、例えば時価総額1億円の企業の株式を1000万円の投資で10%保有していた場合、時価総額が1000億円のユニコーン企業(創業10年以内、評価額が10億ドル以上、未上場、テクノロジーという4つの条件を備えた企業)に成長すれば、手元の株式の価値は100億円に跳ね上がる。
従来は株式上場(新規株式の公開=IPO)が起業の「ゴール」とされたが、最近では大企業への売却をポジティブに受けとめる起業家が増えた。大企業が持つ優秀な人材などのリソースを活用できるなどが理由。また、主幹事の選定や上場審査といった準備に数年を要するIPOに比べて、大手企業の傘下入りであれば創業間もないスタートアップでも可能だ。投資家が資金を無事に回収する「イグジット」(出口)戦略も、多様化しているわけだ。
会社の売却で大金を手に入れた20~30代のミレニアル世代の若者が次から次と生まれ、彼らがエンジェル投資家になって後進の起業家を支援するという新たな循環が生まれており、エンジェル投資家の輪は今後さらに広がりそうだ。
「エンジェル投資家とは何か」
小川悠介著
新潮社
税別720円