【日韓経済戦争】新型肺炎でマスク不足の韓国 マスク増産を邪魔する巨大労組の横暴 韓国紙で読み解く

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   隣の中国から新型肺炎の脅威にさらされている韓国では、マスク不足が深刻になっている。政府が買い占めや売り惜しみには懲役刑を科す強硬手段に乗り出したほどだ。

   そんななか、マスクメーカーの増産の動きを巨大労組が邪魔をしているという。なぜ、労組が国民の健康を害するような行動に出るのか。韓国紙で読み解くと――。

  • マスク不足が深刻だというのに(写真はイメージ)
    マスク不足が深刻だというのに(写真はイメージ)
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犬猿の仲の二大労組がマスク増産阻止で共闘するワケ

   普段は犬猿の仲である韓国を代表する二大労働組合組織が、ことマスクの増産にかんしては協力して邪魔をするという不思議な構図を、朝鮮日報の社説「マスクメーカーの『週52時間労働』を妨害する労組たち」(2020年2月5日付)がこう伝えている。

「韓国保健福祉部(編集部注:日本の厚生労働省に相当)疾病管理本部と複数の病院、マスクメーカーなどを含む9つの事業場が労働時間の特別延長を申請した。すると全国民主労働組合総連盟(民主労総)と韓国労働組合総連盟(韓国労総)が『特別延長勤務の拡大は労働時間の延長に悪用される』として訴訟などの反対闘争を共同で行うとの方針を発表した。国民の健康や国の経済よりも労組の既得権の方が重要というわけだ」
「韓国政府は企業の意見を無視したまま、世界で最も硬直した週52時間労働制度を強く押し進めた。その影響で問題が深刻になると、とりつくろう策として施行規則を改正し、特別延長労働の条件を拡大した。一分一秒が惜しい企業としては、何か必要なことがあるたびに政府の許可を受けねばならなくなったのだが、それでも週52時間労働に風穴を開けたと歓迎した。ところが上記の二大労組はこれさえも阻止するという」

   ここで問題になっている韓国の「週52時間労働制度」をおさらいしておこう。左派の文在寅(むん・ジェイン)政権は「労働者の生活保護」を目的に2018年2月、労働基準法を改正、それまで週40時間労働を基本に最大28時間の超過労働を認めていたところを、超過労働の上限を最大12時間までとした。つまり、週52時間までしか働けなくなったのだ。

   しかも、従業員が1人でも残業時間をオーバーすると罰金が科せられ、経営者も刑事罰を受けるという極めて厳格なものだった。どんなに忙しくても労働者の勤務時間を延ばすことができず、企業の生産性が落ち、韓国経済衰退の最大の原因といわれた。このため、昨年から罰則を少し緩めて、政府の許可を受ければ「特別延長を認める」という措置をとったのだった。

   今回は、新型肺炎パニックに対応する政府の対策本部と医療機関、そしてマスクメーカーが、労働者の「特別超過労働」の対象になったのである。特に韓国ではマスク不足が深刻で、買い占めや価格つり上げが横行、韓国政府は2月4日、悪質な買い占めや売り惜しみには、2年以下の懲役または5000万ウォン(約460万円)の罰則を課す特別政令を発表したばかりだった。

サムスン財閥の労組をどちらが牛耳るかの争い

   二大労組はなぜ「マスク増産」に反対するのか。朝鮮日報社説が続ける。

「二大労組は『マスク製造に反対するわけではない』としているが、特別延長労働が拡大しなければ、注文が激増するマスクを作ることはできない。中国の工場が稼働していないため、国内で労働時間の延長が避けられないメーカーとしてもこれでは対策の施しようがない。国民が危険にさらされようがどうなろうが、経済がどうなろうが関係ないという話だ」

   この二大労組はもともと仲が悪い。ともに日本でいえば日本労働組合総連合(連合)のような労組のナショナルセンターだ。全国民主労働組合総連盟(民主労総)は文政権を全面的に支持してきた左派団体。一方、韓国労働組合総連盟(韓国労総)は現在、文政権を支持しているものの文政権成立以前は保守政権寄りで、民主労総は韓国労総を「御用組合」と罵倒してきた。

   この二大労組があえて「マスク増産」阻止に手を組んだように見える背景を朝鮮日報社説がこう解説する。

「現在、二大労組は無労組経営が崩壊したサムスングループ系列企業に、どっちが先にのぼり旗を立てて、組合員をより多く確保するかを巡って競争を繰り広げている。文政権による労働組合寄りの政策によって最大労組となった民主労総と、地位奪還を目指す韓国労総間の勢力拡大競争が非常に激しくなっているのだ」

   じつは昨年(2019年)11月、それまで50年間、労働組合が存在しない「無労組経営」を続けてきたサムソングループの中核、サムスン電子に初めて労働組合が誕生した。韓国のGDPの18%を占めるグループ内には多くの系列企業がある。最初に組合を作ったのは韓国労総系だったが、民主労総も「巨大な労働組合員市場」としてサムソン内に橋頭保を築こうと狙っている。そのためには、両労組とも「週52時間労働制」を断固貫き、労働者の権利を守る姿勢を見せる必要があるというわけだ。

   朝鮮日報社説は最後にこう嘆いている。

「これではサムスンでさえ今後どうなるか分からないだろう。国民の安全と国の経済が労働組合の人質になってしまったようだ」

(福田和郎)

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