サムスン財閥の労組をどちらが牛耳るかの争い
二大労組はなぜ「マスク増産」に反対するのか。朝鮮日報社説が続ける。
「二大労組は『マスク製造に反対するわけではない』としているが、特別延長労働が拡大しなければ、注文が激増するマスクを作ることはできない。中国の工場が稼働していないため、国内で労働時間の延長が避けられないメーカーとしてもこれでは対策の施しようがない。国民が危険にさらされようがどうなろうが、経済がどうなろうが関係ないという話だ」
この二大労組はもともと仲が悪い。ともに日本でいえば日本労働組合総連合(連合)のような労組のナショナルセンターだ。全国民主労働組合総連盟(民主労総)は文政権を全面的に支持してきた左派団体。一方、韓国労働組合総連盟(韓国労総)は現在、文政権を支持しているものの文政権成立以前は保守政権寄りで、民主労総は韓国労総を「御用組合」と罵倒してきた。
この二大労組があえて「マスク増産」阻止に手を組んだように見える背景を朝鮮日報社説がこう解説する。
「現在、二大労組は無労組経営が崩壊したサムスングループ系列企業に、どっちが先にのぼり旗を立てて、組合員をより多く確保するかを巡って競争を繰り広げている。文政権による労働組合寄りの政策によって最大労組となった民主労総と、地位奪還を目指す韓国労総間の勢力拡大競争が非常に激しくなっているのだ」
じつは昨年(2019年)11月、それまで50年間、労働組合が存在しない「無労組経営」を続けてきたサムソングループの中核、サムスン電子に初めて労働組合が誕生した。韓国のGDPの18%を占めるグループ内には多くの系列企業がある。最初に組合を作ったのは韓国労総系だったが、民主労総も「巨大な労働組合員市場」としてサムソン内に橋頭保を築こうと狙っている。そのためには、両労組とも「週52時間労働制」を断固貫き、労働者の権利を守る姿勢を見せる必要があるというわけだ。
朝鮮日報社説は最後にこう嘆いている。
「これではサムスンでさえ今後どうなるか分からないだろう。国民の安全と国の経済が労働組合の人質になってしまったようだ」
(福田和郎)