ここ数年、終身雇用制や年功序列といった日本型雇用システムの崩壊、終焉を指摘する声が強まっている。
それに呼応するかのように、転職、副業、独立、起業...... と、新しいキャリアづくりの提案も盛んだ。本書「僕たちは、地味な起業で食っていく。」は、その中に「割り込んできた」一冊。引っ提げてきたのは「地味な起業」だ。
「僕たちは、地味な起業で食っていく。」(田中祐一著) SBクリエイティブ
会社でしか生き残れないスキルに不安
表紙には、「会社員の『地味なスキル』で経済的に自立する世界一安パイな働き方」とある。著者の田中祐一さんは、「会社員のための地味な起業プロデューサー」を名乗る会社社長。ネットビジネスで知られるようになった「プロダクトローンチ」のマーケティング手法を取り入れた講座などで、起業や副業のプロデュース、コンサルティングを行っている。
理系の大学を卒業後に、IT開発大手のNTTデータに就職。システムエンジニアとして、多忙な一方で充実した気持ちで仕事をしいたという。しかし、そのうちに、「このまま働き続けて将来的に大丈夫なのか」との思いが頭をもたげ、だんだんと心、会社にあらずの気持ちになってきた。
この会社にずっといると、この会社でしか生き残れないスキルだけが手に入る」
じわじわと、そんな気持ちが膨らんできた。
調整能力とか政治力といった「社内限定」のものだ。世間では、終身雇用の限界が言われ始めてもいる。努力していろいろなスキルを身につけても、それらが社内だけでしか通用しないものなら、転職市場では「価値が低い人材」と評価され、将来的な展望が閉ざされてしまう。
だが「転職」は勤め先を変えることだから、根本的には変わらない。そこで、著者は「起業」へと舵を取り、あまり深くは考えず船出した。しかし、実際に始めたことは、勤務時に心得があった「スマホ向けのホームページをつくるコンサルティング」。ところが、実績もなく営業スキルもなく、魅力的なセールスの提案もできずで、仕事は入ってこない。交流会やセミナーなどで知り合った自営業者らの手伝いをして過ごすことになったが、その過程で「青天の霹靂(へきれき)」がめぐってきたという。