人事を尽くして天命を待つ
運をつかめなかった。つまり、成功しなかったのは努力して運を開拓しなかったから、と考えてしまいがちです。
いまでも、多くの人が成功や失敗を強く意識して、お金や財を得ることに必死になります。まさに生きていくために必要だと言わんばかりです。これについて、渋沢栄一は、
「お金や財は生きるためには必要のないこと」
とだと主張します。どういう意味でしょうか。
「自分の命の実質的な価値に比べたら、お金や財産という成果はカスに等しいと栄一は言っています。運命について栄一は運ぶ命と考えていたと思います。宿命のように変われないものではない。運命とは自ら変えられるものであり、人生のすべてを支配しているわけではないと考えました。逃れられない運命の流れにそいつつも、自分の知恵を磨き、努力することで、運命を開拓できるとして、最後まで懸命に生きました」
と、渋澤さん。
「いつも学び、知恵と行動力を身につけていけば、チャンスが訪れたときにそれをチャンスだと見極めつかむことができます。成功や失敗という基準は、長い人生における一つの過程での『あや』でしかありません。だからこそ、焦ることなく人生を大いに楽しみましょう」
と、説いています。
近代日本経済の父・渋沢栄一の名著を現代におきかえ、読みやすいスタイルに再構成した一冊。どんな状況でも運命を切り開き、逆境に立ったときこそ考えるべきこととは何か、やるべきこととは何か――。
監修は、大ベストセラー「現代語訳・論語と算盤」の訳者である守屋淳氏です。(尾藤克之)