中国・武漢発の新型肺炎の猛威が日本や韓国を襲っている。
こんな緊急事態でも韓国メディアは日本をライバル視して、「被害は日本のほうが大きい」とはしゃぐ一方、「政府の対応は日本のほうが早い」と悔しがる。
そんなことを比較し合って一喜一憂している場合だろうか。韓国紙を読み解くと――。
「韓国に続いて中国まで......弱り目にたたり目の日本」
中央日報(2020年1月27日付)「日本観光業界 韓国に続いて中国までダブルパンチ」が、それ見たことかと言わんばかりにこう伝えている。
「『韓国(からの旅行客減少)も尾を引いている中で、ダブルパンチだ』。日本の人気旅行地、京都嵐山のレストランの職員が毎日新聞のインタビューで語った言葉だ。韓日関係の悪化で韓国人観光客が減少したなか、武漢の新型肺炎の影響で中国政府が1月27日から団体旅行を禁止し、日本旅行業界では悲鳴が上がっている」
中央日報は、中国からの春節旅行客に期待していた日本各地の観光ホテル、デパート、ドラッグストアなどの惨状をこまごまと紹介した後、日本経済に与える打撃の具体的な数字をあげてみせた。
「昨年(2019年)日本を訪問した中国人観光客は、前年比14.5%増の959万4300人だった。外国人観光客全体(3188万人)の約30%にのぼる。韓国人観光客(558万人)が前年比で26%減少したなか、日本観光業界の中国依存が強まる様相だった。昨年の外国人観光客の消費額は4兆813億円で、うち中国が37%の1兆7718億円だ。訪日外国人全体の半分を占める中国と韓国の空白を埋めるのは難しい。日本経済に及ぼす打撃は避けられない」
そして、論調の矛先を安倍晋三首相に向けて、こう皮肉るのだった。
「安倍晋三首相は1月20日の施政方針演説で『(外国人観光客は)2030年に6000万人実現を目標にする』と明らかにしたが、従来目標にしてきた『東京五輪の今年の4000万人実現』には言及しなかった。これに対して、『安倍首相は4000万人目標達成が難しくなり、手を引き始めた』という解釈が出ている」
ハンギョレ(2020年1月27日付)も「韓日葛藤に『新種コロナ』まで...『弱り目にたたり目』の日本観光業界」という、皮肉をたっぷり利かせた見出しでこう伝える。
「日本の観光業界が観光客の急減を心配している。韓日関係悪化の余波で韓国人観光客が減少しているうえに、全体で1位の中国人観光客まで減少すれば、日本の観光業界が相当な打撃を受けかねないためだ」
ハンギョレも日本各地の苦境を詳しく書いた後、こう続ける。
「日本政府は、今年の目標である観光客4000万人達成は難しくなると憂慮している。しかも、日本の観光業界は東京五輪・パラリンピックを控えて投資を拡大してきたので、中国人観光客の減少が長期化すれば一層深刻な影響を受けかねない。観光業界の従事者の心情は複雑だ。中国人観光客が減少すれば経済的に打撃を受けるが、新型肺炎の感染拡大も心配なためだ。東京で中国人観光客を乗せたバスを運転する運転手は、『率直に言えば感染は怖い。だが、中国からのツアー観光がなくなれば仕事もなくなる。それも恐ろしい』と話した」
まさに日本は今、「弱り目にたたり目」「泣きっ面にハチ」状態だとはしゃいで報じているようだ。
株価が大暴落しているのは韓国のほう
しかし、新型肺炎の影響をもろに被っているのは韓国も同じ。韓国各地の観光地でも中国からの団体客のキャンセルが相次いでいるのだ。さすがに、経済専門紙の「韓国経済」は冷静に自国経済への打撃を分析している。「韓経:大韓航空まで赤字...「新型肺炎」の暗雲まで押し寄せる」(1月28日付)で、こう伝えている。
「韓国1位の航空会社である大韓航空が昨年(2019年)10~12月期に赤字に転落したと推定される。大韓航空は昨年7~9月期に韓国系航空会社で唯一営業利益を出していた。昨年10~12月期に韓国系航空会社が最悪の業績となったと推定される中で、最近の新型コロナウイルスによる新型肺炎まで加わり、今年の業績見通しも暗いという分析が出ている」
韓国の航空業界は、日韓の対立による「ボイコットジャパン」運動のため、日本への旅行客が激減した。その分の穴埋めを他の東アジア諸国向け旅行客に求めたが、日本旅行を手控えた人たちは旅行そのものをやめた人が多かったのだ。
そのため、韓国の航空各社は軒並み赤字に陥り、唯一大韓航空だけが持ちこたえていたが、その大韓航空も10~12月期には赤字に転落すると証券業界が予想しているというのだ。
韓国経済が続ける。
「今年に入り新型肺炎問題まで加わり、航空業界の心配はさらに深まっている。仁川(インチョン)~中国・武漢路線を週4便運航していた大韓航空は1月24日から路線の運航を中断し、ティーウェイ航空も1月21日に新規就航予定だった仁川~武漢路線を中断した」
韓国の航空各社は、日本との対立が激化して以降、起死回生策の一つとして対中国路線拡大にシフトしていたのだ。それが、新型肺炎問題によってダメになった。日本の観光業界を笑っている状態ではないのだ。
こうした懸念を受けて、株式市場も大幅に下落した。中央日報「『Cの恐怖』韓国株式時価総額1日で54兆ウォン消える」がパニック状態になった韓国経済をこう伝える。
「新型コロナウイルスによる肺炎に対する恐怖が金融市場を襲った。1月28日の韓国金融市場で株価とウォン相場は同時に大きく下がった。この日韓国総合株価指数(KOSPI)は前取引日より69.41ポイント(3.09%)下落の2176.72で引けた。1日の指数下落幅としては2018年10月11日の98.94ポイントから1年3か月ぶりに最も大きかった」
中国に対する輸出が振るわなくなるとの見通しに、サムスン電子、SKハイニックス、LG化学など半導体関連株が軒並み急落した。この日だけで時価総額が旧正月連休前に比べ54兆ウォン(約5兆円)減少したことになる。東京証券市場の日経指数は27日が前日より2.03%安に続き、28日が0.55%下落だから、韓国のほうが下落幅は大きいのだ。
中国から「最も重要な友」と言われた日本を見習え
一方、日本政府の新型肺炎対策の素早さを羨む論調も目立つ。中央日報(1月29日付)「コラム:『現場から』 チャーター便もマスク支援も日本より一歩遅れた韓国政府」が日本政府を引き合いに韓国政府をこう批判する。
「韓国政府は、新型肺炎の発源地である中国武漢に孤立した韓国人700人余りの帰国を支援するため、1月30~31日にチャーター機4便を投じるが、このときに武漢に向かうチャーター便を通じて官民合同でマスク200万枚を用意して中国側に伝達する。政府措置は日本と比べてどれも一歩ずつ遅れた。新型肺炎の先制対応に失敗したという指摘も出ている」
日本は政府と民間が足早に動いた。茂木敏充外相は1月26日、中国の王毅外相に電話をかけて慰労を伝える一方、対策を協議。日本は28日夜にチャーター便を派遣。29日朝、武漢居住の日本人約200人を1次帰国させた。
民間では、26日に100万枚の防疫マスクを中国に空輸した。迅速に支援に乗り出した日本に対して、中国ネットユーザーは「日本、マスクありがとう!」と感謝し、「必要な場所にそれに合った支援を瞬時に送る」という意味の「雪中送炭」という表現を使った。
ところが、韓国ではマスクなどの寄付活動は民間が先に動き、政府があとからそれに参加した。やっとマスクを中国に送ったのは、日本より2日遅れの28日だった。もっと前から青瓦台(大統領府)の掲示板に武漢にマスクを寄付しようという請願が投稿されたのに対応が遅かった。チャーター機を派遣するのも日本より2日遅れというありさま。
そして中央日報は最後に、こう残念がるのだった。
「中国では『真の友は患難を共に克服した人』という認識が強い。新型肺炎で素早く支援に動いた日本に対して『過去に過ちを犯した日本だが、今、日本は中国の友だ。それも最も重要な友』という評価が出ている。伝染病が拡散危機にあるときは、『最初からやりすぎだ』という評価が出るほど、果敢な先制対応を行うのが正しいという疫学専門家の警告を、韓国政府は深く心に刻んでもらいたい」
(福田和郎)