日本経済や社会が今後どうなるのか――。おそらくは、ますます高まるデジタル化や少子高齢化の波が大きく影響することは間違いない。
しかし、考えられるプロセスはさまざまで、その間にも不測の事態がないとも限らない。民間シンクタンクの日本経済研究センターの理事長を務める岩田一政さんは、ただデジタル時代には情報やデータなどが「資産化」することは間違いなく、日本が人口減少などの「向かい風」に抗して成長を続けるためには投資先を誤らないことが重要だ、という。
「2060デジタル資本主義」(岩田一政、日本経済研究センター編) 日本経済新聞出版社
デジタル化が進んだ「未来の風景」
今後ますますデジタル化が進んだ社会では、富を生む道具は「無形資産」になるという。AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのデジタル技術と、それらを生かす事業の仕組みがビジネスモデルになる。
情報通信分野の技術進歩のスピードは目覚ましく、インターネットのデータ通信量は、2008年から18年までの10年間で10倍に増加。5G(次世代通信網)の登場で、増加はさらに加速が見込まれる。デジタル化が進んだ社会では、大量の情報がデータ化されAI(人工知能)によって処理される。顧客からの問い合わせを受けるコールセンターでは、AI処理された過去の対応の蓄積を使った自動応答が可能になり、すでに仕組みの一部は実用化されている。医療面では胸部エックス線検査の画像によるAI診断などで人間の精度に追いついているという。
こうしたサービスの高度化、デジタル化が進展する社会では、生産活動でも機械設備や建物などの不動産といった有形資産より、知識や情報のように目に見えない資産、すなわち「無形資産」の重要性が増してくる。コンピューターのソフトウエアやデータ、研究開発により得られた技術や特許などだ。このうち、国内総生産(GDP)の統計にはソフトや研究開発などごく一部しか計上されておらず、推計の試みが進められている。
多くの国では無形資産への投資が比重を増す傾向が進行中。米国や欧州の国々では、無形資産投資が、有形資産投資を逆転している。社会のデジタル化の流れは、企業の評価額にも表れている。世界の時価総額上位10社を見ると、2003年末にはエネルギー関連企業や金融機関が半分以上を占めていたのに対し、18年末時点では、7社が米中のIT企業。「データを活用するビジネスが将来にわたり価値を生む」と市場関係者は予想しているわけだ。