相手の「常識」で説明する
「伝わる説明」をするため、最初に心得ておきたいのは、なにかを説明する際、自分と相手の「常識」が一致していればスムーズに話が進むということ。たとえば「顧客」という言葉は、顧客以外にもビジネスでは「お客さま」「お客さん」「お得意先」「クライアント」などさまざまな呼び方があるが、相手が「お得意先」という言葉を使っているなら、同じ言葉を使って話をすることが大切だ。
この相手に対して、自分のほうが「クライアント」という言葉を使って説明し始めると、相手は「クライアント? ああ、お得意先のことね」というように、自分のことばに置き換えてから理解しなければならず、そこから齟齬(そご)をきたして伝わるものも伝わらなくなってしまう可能性がある。自分の常識ではなく、相手の常識で説明することが、「伝わる説明」の第一歩だ。
相手の常識で説明することが最も重視されるケースの一つは「顧客・取引先に納得してもらう説明」だ。いわゆる「ウケ」に気を遣うあまり、カタカナ言葉、専門用語を使いがち。「共通語」と勘違いして社内用語を使ってまったく気にしないなどという場合もある。
「オルタナティブ投資のカテゴリーに属する今回のストラテジーは、いわばアンチテーゼとして...」などとやっては、相手は全く理解できないだろう。専門用語はだれにでも理解できる簡単な言葉に言い換えることが必要。正確な情報を伝えるためには業界用語などを使わざる得ないことがあるが、その場合は、「つまり~ということです」「言い換えると~」など、補足説明を加えることが提案されている。
他方、顧客の取引先が普段から使っているカタカナ言葉や専門用語、相手の業界用語で説明することで、スムーズな意思疎通ができるようになることがある。たとえば、広告・放送業界のマーケティング用語で「F1層」「M1層」というのがあるが、それぞれ「20~34歳の女性」「20~34歳の男性」の意味。本書では、効果的な使い方が説明されている。
製造業でよく使われるフレーズの一つに「ご安全に」というあいさつ言葉があり、その意味するところは「おはようございます」であり「こんにちは」であり「お疲れさまです」「お気をつけて」などさまざま。製造会社の社員に対しての業務連絡で「ご安全に、○○会社の△△です」などと始めると、相手の見方が変わり、その後の関係がスムーズに進む可能性があるという。
本書では「顧客・取引先」のほか「上司」「後輩や部下」「会議」など、シーン別に最適な「説明の仕方」を解説。スムーズなコミュニケーションのためには非常に実用的な一冊で、ビジネスパーソン以外でも、面接を控える就活生などにも役立ちそうだ。
「仕事のできる人が絶対やらない説明の仕方」
車塚元章著
日本実業出版社
税別1400円