「違反残業が300万人」という記事が2020年1月20日付の日本経済新聞に掲載された。総務省の調査で判明したものだが、実態面では違反残業として表面化しない「サービス残業」として蔓延し始めている。
労働基準法が定めた法定労働時間は1日8時間で週40時間。1か月単位で計算すると80時間の残業を含めて240時間程度となる。日本経済新聞によると、総務省の労働力調査で2019年4~11月に月241時間以上働いた雇用者は月平均で約295万人おり、「過労死ライン」と呼ばれる月100時間超の残業をした人も月平均で170万人に達していた。
その要因として、「労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったシワ寄せで管理職の残業が高止まりしている」ことをあげている。
違反残業者数は月平均で295万人
違反残業の問題は、2015年12月25日に元電通社員の高橋まつりさん=当時(24)=が自殺し、その原因が最長月130時間の残業などにあったことが明らかとなり、東京・三田労働基準監督署がそれを過労死として認定したことで、違反残業廃止の社会的気運が高まったことから始まった。
2018年7月24日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、1週間の就業時間を60時間未満とする数値目標が設定され、2020年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とすることが目標とされた。
一方、「働き方改革関連法」では、2019年4月から「罰則付き残業規制」が施行された。この規則では、原則として月間45時間、年間360時間の時間外労働時間(残業時間)を上限としている。
特別な事情があって労使が合意した場合でも、残業時間と休日労働は月100時間、2~6か月で平均80 時間が上限として設けられている。
これらの上限を超える違反をした場合、罰則として「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されることとなる。
労働力調査によると、月241時間以上働いた違反残業者数は、月平均で約295万人。2018年度(こちら、年度でいいのですか?労働力調査は2019「年」なのですよね?)平均の319万人より減少してはいるものの、雇用者全体の5%を占めた。
ところが、問題はこんなものではない。違反残業として表面化しない「サービス残業」が横行し始めているというのだ。
賃金未払いのまま、残業しているケースは増えている
総務省が発表する「労働力調査」は、労働者を対象として実際に働いた時間を集計する。その一方、厚生労働省の発表する「毎月勤労統計」事業所を対象とし、賃金を支払った分の労働時間を集計している。したがって、二つの統計を比較することで「サービス残業」を推測することが可能になる。
つまり、労働力調査と毎月勤労統計の乖離は、「『実際に働いた時間』-『賃金の支払われた時間』=『賃金の支払われてない労働時間』」となり、賃金が支払われない「サービス残業」を、炙り出すことができる。
実際、二つの統計の乖離は2016年初めまでは月に19時間程度だったが、残業廃止の機運が高まると、2018年初には月18時間を割り込むまでに減少した。だが、その後は再び増加に転じ2019年には月18時間後半にまで戻っている。
「就業時間後は、残業禁止のため仕事ができないので、早朝出勤をしている」(製造業)
「残業が認められなくなってから、自宅で仕事をする時間が倍になった」(教育関係)
といった声に象徴されるように、じつは就業時間以外で賃金が支払われないまま、残業を行っているケースは増加している。
厚生労働省が2019年10月1日に発表した「令和元年版 過労死等防止対策白書」の中では、労働者1人当たりの年間総実労働時間が緩やかに減少しており、これはパートタイム労働者の割合の増加によるものだと分析している。
しかし、今年4月からは「罰則付き残業規制」が中小企業にも適用され、また2024年4月からは適用除外となっている自動車運転の業務、建設事業、医師など一部の事業・業務へも適用される。
果たして、これらをパートタイム労働者の増加で賄い、本当に残業時間を減らすことできるのか。そして、悪質なサービス残業をなくすことはできるのか。
本当に必要なのは、労働基準監督署の機能・人員強化を行い、厳しく企業を取り締まることではないか。(鷲尾香一)