賃金未払いのまま、残業しているケースは増えている
総務省が発表する「労働力調査」は、労働者を対象として実際に働いた時間を集計する。その一方、厚生労働省の発表する「毎月勤労統計」事業所を対象とし、賃金を支払った分の労働時間を集計している。したがって、二つの統計を比較することで「サービス残業」を推測することが可能になる。
つまり、労働力調査と毎月勤労統計の乖離は、「『実際に働いた時間』-『賃金の支払われた時間』=『賃金の支払われてない労働時間』」となり、賃金が支払われない「サービス残業」を、炙り出すことができる。
実際、二つの統計の乖離は2016年初めまでは月に19時間程度だったが、残業廃止の機運が高まると、2018年初には月18時間を割り込むまでに減少した。だが、その後は再び増加に転じ2019年には月18時間後半にまで戻っている。
「就業時間後は、残業禁止のため仕事ができないので、早朝出勤をしている」(製造業)
「残業が認められなくなってから、自宅で仕事をする時間が倍になった」(教育関係)
といった声に象徴されるように、じつは就業時間以外で賃金が支払われないまま、残業を行っているケースは増加している。
厚生労働省が2019年10月1日に発表した「令和元年版 過労死等防止対策白書」の中では、労働者1人当たりの年間総実労働時間が緩やかに減少しており、これはパートタイム労働者の割合の増加によるものだと分析している。
しかし、今年4月からは「罰則付き残業規制」が中小企業にも適用され、また2024年4月からは適用除外となっている自動車運転の業務、建設事業、医師など一部の事業・業務へも適用される。
果たして、これらをパートタイム労働者の増加で賄い、本当に残業時間を減らすことできるのか。そして、悪質なサービス残業をなくすことはできるのか。
本当に必要なのは、労働基準監督署の機能・人員強化を行い、厳しく企業を取り締まることではないか。(鷲尾香一)