2020年の為替相場はどうなるのか――。
それは、例年以上に難解に感じます。
2017、2018年と2年連続してドル円相場はあまり大きく動きませんでした。そのため、2019年こそは大きく動くのではないかと期待されたのですが、多くの方がご存知なように、年間の高値と安値の差がわずか8円程度という、史上最も変動幅の少ない一年となりました。
2019年、1年間でわずか「8円」の変動幅
ドル円相場が動かないのは、構造的な問題もあるのかもしれません。AI(人工知能)によるトレーディングが一般化し、多くの個人投資家が外国為替市場に容易に参加できるようになりました。
ただ、多くのAIは相場が上昇すれば売り上がり、下落すれば買い下がるという単純な思想で設計されており、それゆえAIによるトレーディング比率が高まれば高まるほど、市場は厚い売りと厚い買いのオーダーに挟まれることとなって、相場全体が動かなくなる状況に陥りやすくなっています。
しかし、それでも相場の基礎的条件(ファンダメンタルズ)に変化があれば、相場はその方向に動くはずです。
日本の経常収支の黒字は比較的大きく、毎年20兆円近い黒字が続いています。しかし、多くは証券投資によるリターンであり、国内に戻るというより、海外に再投資されることになります。
貿易収支はほぼ均衡しており、かつてのように大手輸出企業による円買いによってドル円相場が崩れるという場面も見なくなりました。その一方、日本企業によるM&Aは依然活発で、毎年10兆円を超える資金が海外企業買収に向かいます。すなわち、証券投資の黒字は海外に滞留し、M&Aなどの資金は毎年海外に向かうので、この面においてはネットで少し円安方向に資金は流れています。
ファンダメンタルズによる予測は力を失っている!
購買力平価で考えるドル円の適正レベルは諸説ありますが、現状はかなり円安レベルだと思います(それゆえ、海外からの観光客が多い)。 1年ほど前の米国の為替報告書では「円は20%割安」と常に指摘されていました。すなわち、米財務省が当時適正と考えていたドル円レートは85~90円レベルということです。日本銀行が発表している「実質実行為替レート」でも、現状の円のレベルはプラザ合意前の割安水準となっています。
ところが、つい先日発表された米為替報告書では、IMF(国際通貨基金)の報告書が採用されていました(IMF 2019 External Sector Report)。それによると、現状のドル円レートはほぼ適切なレベルとされる一方、ドイツにとってユーロドルのレベルは10数%割安と指摘されています。
同時に、同じ通貨を使用するイタリアにとっては、ユーロドルのレベルは5%程度割高と指摘。このあたりが共通通貨を使用する国々にとって課題でしょう。
このレポートが、トランプ政権の以降を反映しているとするならば、ドル円のレベルに関しては特にお咎めなしですが、ユーロドルはかなり割安であり、早急に改善されないとダメだということになります。
トランプ政権になってから為替市場が動かなくなってきた理由として、先ほどAIによるトレーディングを指摘しましたが、もう一つは、政治イベントが及ぼす影響が強くなり、従来からの経済ファンダメンタルズを積み上げる予測が力を失っている点を指摘することもできます。どうしても、政治イベント待ちになってしまいます。
ドル円相場、ゆっくりとドル高の方向へ
米中貿易協議の第1段階が曲がりなりにも終了しました。米中の貿易が復活することから、世界経済は少しよくなっていく可能性があります。成長の回復は、欧州やオセアニア経済にいい影響をもたらすはずです。その意味では、ユーロの緩やかな反発が期待されます。
ECB(欧州中央銀行)のラガルド新総裁は、ECB政策決定のプロセスを見直すと発言していますが、ドラギ前総裁が進めた過度な金融緩和政策が見直される可能性があります。過度な金融緩和を見直す動きは、じつはグローバルに出てきており、まだ利下げ局面の中にありますが、オーストラリア(豪)やニュージーランド(NZ)の中央銀行も同じ考え方を持っている模様です。
日本は「短期決戦」「2年以内に」と当初言っていた異次元緩和政策を、出口も見えず、ズルズル続けていますが、そうした動きとは決別しようとしているのでしょう。
こうして見てみると、ドル円は現状レベルから、ゆっくりとドル高の方向に振れてもいいかなと思う一方、ユーロドルは底入れしそうです。リスクオン的環境のなか、ユーロ円などのクロス円取引がいいのかなと感じます。
想定レンジは、ドル円が1ドル=105~115円ですが、115円方向へのバイアスでしょうか。ユーロドルは1ユーロ=1.05~1.18ドル程度で、押し目買いを想定、ユーロ円は1ユーロ=115~135円程度で円安バイアスと見たいです。
豪ドルは、未だ利下げ局面です。ボトムを予想するのは難しいのですが、現状の経済レベルが継続するならば、年間レンジは対米ドルで0.65-0.75、豪ドル円は70-80円レンジと想定します。
どの通貨ペアも、予測は難しく、2020年は決め打ちするのではなく、状況がいろいろと移り変わるので、それに柔軟に対応していくのが肝心だと思います。
次回は、2020年のリスク、特に米大統領選挙における「左派リスク」について考えたいと思います。(志摩力男)