10社の実例を紹介
経営者の高齢化に加え、後継者不在も深刻だ。60代で53%、70代で42%が「後継者が決まっていない」と回答。後進に道を譲り、事業をより時代に即したものにしたくてもできないのが実情といえる。中村さんは「事業承継でM&Aが常に最善とはいえないが、後継者候補がいないならば、M&Aを含めた第三者承継を検討し、自らがいなくなった後について準備すべき」と述べる。会社を存続させ従業員らに対する責任を果たすという意味でも重要だ。
後継候補がいる経営者のあいだでも、最近では「従業員に雇用の維持」や「事業の成長・発展」を重視し、M&Aを検討する動きもみられるようになっているという。
中小企業庁の試算によると、2025年には6割以上の経営者が70歳を超え、全体の約3分の1にあたる127万社が後継者不在。累計650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる危機に直面するとされる。「M&Aは中小企業経営者にとって事業承継の選択肢のうちの1つであり、譲渡側にとっても譲受側にとってもメリットが多い手法であることから提案活動を続けている」と中村さん。
M&Aキャピタルパートナーズは、2005年に創業ののち、13年に東証マザーズに、14年には東証1部に上場した。いまでは年間140組以上の案件を仲介する。本書ではこれまでかかわった数多くの案件のなかから、同社のサポートでM&Aを決断したという10社の事例を紹介している。事業承継を考えている経営者にとっては参考になる内容だ。
たとえば、石川県羽咋市の鍛造品製造会社、羽咋金属。1968年の創業から50年後の2018年に長年の取引先だった大手ベアリングメーカーの傘下に入った。リーマン・ショックで130億円あった売上高が10分の1まで激減したが、それによる経営危機は乗り越えたものの譲渡を決めた。グローバル化のなか、中小企業単独での成長に限界を感じたためだ。M&Aによりフィールドを広げ、いまではサウジアラビアでの工場建設、中国進出の計画を進めている。
大手企業を相手にしたM&Aだけでなく、株式の譲渡先として投資ファンドを選んだケースも3件紹介している。
「M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本」
中村悟著
日経BP
税別1500円