日本の企業が関係する企業の合併・買収(M&A)は近年、件数で前の年を上回る状態が続いており、2019年まで3年連続で過去最多を更新している。デジタル時代ならではのICT(情報通信技術)やAI(人工知能)など技術革新に伴うベンチャー投資の増加もさることながら、後継者不足による事業承継案件が増えていることも大きな要因だ。
だが経営者らのあいだではまだ、手塩にかけた事業を他人の手に委ねることに抵抗が根強く、成長が見込めるにもかかわらず一代限りで会社をたたんでしまうケースも少なくないという。本書「M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本」(日経BP)は、後継者問題に悩む経営者らに向け、10社の実例を示して、M&Aによる事業承継のススメを説いた一冊。
「M&Aで創業の志をつなぐ 日本の中小企業オーナーが読む本」(中村悟著) 日経BP
懸念払しょくのため刊行
著者の中村悟さんは、主に小企業を対象にM&Aの助言・仲介を行う独立系の会社、M&Aキャピタルパートナーズ(東京都千代田区)の代表取締役。大手住宅メーカー勤務などを経て2005年に創業し、数多くのM&A案件を仲介してきた。中村さんによると、M&Aは企業にとって成長の可能性を広げるアクションなのだが、「合併」「買収」というとネガティブな響きがあるためか、「騙されるのではないか」「大事な事業と従業員が切り捨てられるのではないか」という懸念がなおつきまとっている。中村さんは、それらを払しょくするために、初の著作となる本書を刊行したという。
少子高齢化の影響で近年は、経営者の年齢も上がり続けている。本書で引用されている中小企業白書の統計では、1995年に「最も多い経営者の年齢」は47歳だったのに対し、その20年後、2015年の同年齢は66歳。つまりこの間、世代交代がほとんど進んでいないことを示している。経営手法の何もかもが世代や年齢と関係するわけでは、もちろんないが、技術や制度の進化や更新が加速化している現代では、こうした経営者らの企業ではほころびが生じる可能性が高いといえる。
M&Aにより、より先進的な企業のハンドリングに経営を預けることにより、それまではまったく無縁だったITを導入。インターネットやスマートフォンの活用で、それまで見えなかった道が開けることも考えられる。