火を噴く日産「非常識」がまかり通る企業風土
そしてもう一つ、元日産自動車の経営トップとしてさらに罪深いことがあります。今回ゴーン氏がカネで不法行為を買うようなインモラルな行動をする非常識な人間であるということがわかったことで、その彼が約20年の長きにわたって独裁的な経営を続けてきた日産自動車という会社の組織風土に及ばした悪影響です。
インモラルな独裁者が経営トップに長年君臨することで、その下に仕える者はトップの非常識行動を常々目の当たりにすることで、トップがあそこまで勝手なことをやっているのなら自分も多少のことは許されるだろう、というモラルや常識に対する感覚がマヒしてしまうことになるのです。
ゴーン氏が組織私物化による多額の私的流用を指摘され組織を追われた後に、そのあとを受けた西川廣人前社長もまた不正報酬疑惑で実質的に更迭されたことは、明らかにゴーン氏がつくりあげた常識を逸脱した組織風土が生んだ不祥事であったと言っていいでしょう。まさにゴーン氏の見えざる影響力が、そこには働いていたと見るべきなのです。
さらに、2019年12月。新生日産自動車を揺るがす事件が起きました。
12月1日に西川CEOの辞任を受け、ゴーン~西川時代の組織風土の払拭を掲げた新体制がスタートしました。外様の内田誠社長、ルノーのアシュワニグプタCOO、プロパーの関潤副COOの三頭分権による、権力集中排除体制の確立がうたわれていました。ところが、ここでまたゴーン時代から尾を引く日産自動車の非常識風土が火を噴きます。体制スタートから1か月もたたない同月25日に、三頭の一角でかつ日産プロパーでトップの関副COOが、他社への「転職」を理由に退職するという信じられない事実が発覚したのです。
経営の一翼を担う関氏のあまりに身勝手な振る舞いは、日産自動車の復権をかけた新体制を根底から覆す、企業人の常識では考えられない異常な行動であるとあえて申し上げます。これもまた、ゴーン氏の振る舞いによって日産自動車社内(特に役員クラス)における自己利益優先のインモラルな行動の常識化が招いた悲劇であると思います。