2年に1度開かれる東京モーターショーの「華」といえば女性コンパニオンだが、本当に必要なのかと問いかける女性ライターの記事が話題になっている。
若い女性の色香で集客しようとする「男性目線」のひと昔前のマーケティングで、コンパニオン目当ての「カメラ小僧」たちで会場が大混乱になっていると指摘する。
ネット上では、
「FIもレースクイーンを廃止した。時代に合わない」
とする賛成意見と、
「コンパニオンの苦労と役割がわかっていない」
という反対意見が真っ向からぶつかっている。
大型トラックの前にハイヒールの美女が立つ意味は?
話題になっているのはニュースサイト「ITmediaビジネスオンライン・マーケティング新世界」(2020年1月6日付)に載った「元ドライバーの女性ジャーナリストが斬る:モーターショーに女性コンパニオンは本当に必要か――『男性目線マーケティング』で露呈した矛盾」 という記事だ。
筆者は「物流ライター」として知られる橋本愛喜(はしもと・あいき)さん。家族が自動車製造に関わる工場を経営していたため、小さい頃からクルマやクルマを使って働く人を観察するのが大好き。また、自らも大型自動車免許を取得し、大型トラックで物を運んでいた経験があり、「ブルーワーカーのスタンス」を大事にして記事を執筆する人だ。
それだけに2019年10~11月に開かれた東京モーターショーでは、まず次の点に強い違和感を抱いたという。
「会場内にひしめく各メーカーのクルマに寄り添うように立つのは、今回も多くの女性コンパニオンたちだった。(中略)大きく空いた胸元の肌に直接社名を刻んだコンパニオンの姿も見られた。(中略)ブルーカラーの過酷な労働環境を知っているがゆえに、ことトラックにおいては、展示されたクルマの前にスカートとハイヒールを履いた女性が立っている意味が全く理解できず、同型車の運転経験者という立場から見ると、もはや不快ですらあった」
そして、こう続ける。
「純粋に『クルマのショー』を楽しむために必要なのは、そのクルマに乗った環境に近い想定をするべきで、ファミリーカーには家族のモデル、商用車には作業服を着用した男女を立たせるのが最も自然のはずだ」
若くてキレイな女性コンパニオンをあらゆるクルマの前に並べるのは、「男性受けを狙ったひと昔前のセンス」であり、そのため、クルマより女性コンパニオンを追い回すカメラマンが会場にあふれ、次のような恥ずかしい状況が起こっていると指摘する。
「これらの(大きく胸元が空いた)衣装を身にまとった彼女たちは、カメラを向ければ笑顔でポーズを取る。実際、男性来場者からも『コンパニオンやカメラマンが邪魔』『純粋にクルマだけ撮りたいのに笑顔でポーズを取られると、どいてと言いづらい』とする意見は多い。キッザニアとのコラボで増えた家族連れ。衣装の女性が付いたクルマに、『小さな来場者』たちは何を思うのだろうか」
「F1もレースクイーン廃止した。時代に合わない」
そして、最後にこう結ぶのだった。
「東京モーターショーの来場者は4人に1人が女性だ。女性が楽しめるイベント会場づくりをすれば、男性カメラマン同様、インスタ映えを狙った若い女性も増えるだろう。若い女性の発信力はカメコ(カメラ小僧)をしのぐ。次回は2021年。男性目線のモーターショーはいつまで続くのだろうか」
この記事には、とくに女性のあいだで共感する声が多かった。
「コンパニオンはいらないよー。職場の飲み会や宴会にもコンパニオンはいらない。生産性がない仕事だよ。飲み会のコンパニオンは上司にお酌しなくていいから楽だけどね」
「受付がキレイなのは会社のイメージとして理解できるけど、車の横に立っているのは何がしたいのかよくわからない」
「バイク雑誌とかも、セクシーな恰好した女性モデルとバイクの組み合わせが多いから、そういうセオリーみたいなのがあるのかな」
「クルマ、カネ、女。男の欲望は単純。まあ、いいクルマもいい女も男の夢ってことだろうね。バブルが抜けない昭和のおじさん臭がプンプンする」
「FIもレースクイーン廃止したものね。時代に合わない感はある」
「証券取引所の大発会にも振袖の女性だけでなく、袴の男性がいた。時代は変わっているんだよ」
控室までコンパニオンを撮りにくるストーカーの群れ
モーターショーでコンパニオンを追いかける「カメコ」(カメラ小僧)の傍若無人の振る舞いに対する怒りも男女を問わず多かった。
「一言だけ言わせてくれ コンパニオンは『男から見ても邪魔』です」
「車よりコンパニオンを観にきているヤツが多くて混んでいるから、モーターショーに行きたくなくなった。ゲームショーもしかり」
「モーターショーの雑用スタッフをしたことあるけど、控室までコンパニオンを撮りにくるストーカーが多いこと多いこと。赤外線レンズでトンデモない角度から撮ったり、あまりにしつこいカメコは男性スタッフが追っ払ったり、警備員が会場と控室の往復に付き添ったりしていた」
「鼻の下伸ばしているオッサンとか、オッサンにベッタリくっつかれて露骨に迷惑そうなコンパニオンとか、嘆かわしい光景がそこら中にあった」
「別にコンパニオンはいてもいいんだけど、コンパニオンがいない日も作ってほしい。カメコが邪魔で車が撮れないんだよ」
「あるいは、時間帯を決めて一区画にコンパニオンを集めて撮影イベントをやってくれると助かるな」
コンパニオン「私たちはお飾りでも会場の華でもない」
一方、記事の筆者の「コンパニオン観」には、当のコンパニオン経験者から「誤解がある」という意見も寄せられた。単なる「お飾り」「会場の華」ではなく、もっと知的で苦労の多い仕事だというのだ。
「コンパニオンの仕事はただ立っているだけではなく、展示車のドア開閉の注意や展示車についての質問に答えるなど多岐にわたります。大抵のメーカーは事前に勉強会を実施しています。いろいろある展示会の中でも、東京モーターショーはその頂点であり、コンパニオンの方々も真剣です。女性が適している理由は、男性来場者が多いからという理由は否定しませんが、他にも、女性であれば男女関係なく、展示車に乗り込むときにエスコートしやすい、子供が怖がらないといった理由もあります。ショーも後半になるとみんな疲労困憊で、足に絆創膏を張りながら頑張っています。どんなにつらくともプロとして、笑顔で接する彼女たちに頭が下がります」
「学生時代にモーターショーでお車の横に立つアルバイトをしました。大変に厳しいオーディションを通らなければならず、顔立ちや体型などの見た目の『華』だけではなく、コミュニケーション能力、上品な立ち居振る舞い、お行儀の良さ、人当たりの良さなど、ありとあらゆる面を評価された人しかできません。普通のコには無理です。なぜなら、企業イメージと商品イメージをまとめて背中に背負うのですから。
おまけに、自分が担当する商品の特性やアピールポイントなどが綴られた資料を、当日までに必死で覚えなくてはなりません。何か聞かれた際に答えられなかったら、恥をかくのは自分ですし、企業だからです。そんな苦労を乗り越えて、車の脇に立つ彼女たちを排除しようとするのは大人気ないと思います」
これとは別に、モーターショーというイベントにはコンパニオンは絶対に必要だという意見も多かった。コンパニオンがいなければ、会場は無味乾燥の単なる広大な自動車置き場になってしまうというわけだ。
「コンパニオンを邪魔だと書いているが、大量の車がただ並んでいる状況では視線の行き場がさ迷ってしまう。そんな時、遠目から眺めても思わず目が行くのはキレイな人が横に立っている車だろう。モーターショーという多数の企業が出展するイベント空間において、彼女たちは自社の車を目立たせる役目があるからそこにいる」
「各ブースの現場では多くのコンパニオンが働いています。展示車両の技術的、販売戦略的な説明や質疑応答のほか、大勢の観客の誘導、プレゼンタイムの呼び込み、ゲームに参加する子供たちの誘導と進行、インスタ撮影した観客への景品渡し、海外代理店や報道、来賓への応対、パンフ配布(これが一番重要!)......。子供の『トイレどこ?』への対応など、女性ならではのきめ細やかさで多種多様な事を行わなければなりません。この記事は『車両だけポツンと置けばいいんだ』と言わんばかりに、モーターショーというお祭りで活躍する彼女たちの仕事内容と気持ちを全く理解しないで書いています」
男性コンパニオンに「目の保養」を求めたい女性客も
じつは最近は、超イケメンの男性コンパニオンも増えているのだ。そのことも橋本愛喜さんは記事で触れており、「まだまだその比率は少ない」と指摘しているのだが、それについても賛否両論があった。
「私、おばちゃんだけど、若い女の子がいたら華やぐ感じはする。でも、それなら若いイケメンも添えてほしいのが本音。車を観にいったついでに目の保養もしたいかな。モーターショーだけど、車を引き立てるような小物だと思えばいいかな」
「イケメン大好きな女性ですが、コンパニオンは女性がよいと思います。素敵な男性に話しかけられたら、素敵でもちょっとコワイかな。幼稚園の先生に若い女性が適任なのは、若い女性だと幼児が安心するから。もちろん男性でも才能があって非常な努力をすれば幼児に懐かれますが、女性ほど簡単にはいきません。まあ私も女性なので、エロい衣装よりも、知的でスポーティーでカッコいい衣装の女性コンパニオンを見たいです」
このイケメン論争には、こんな「正論」の声が――。
「そういう問題じゃないだろ。この場合伝えたいのはクルマの魅力だから、男女関係なくコンパニオン自体が不要なんだよ。女のコンパニオンがダメなら男を増やせばいいでは、結局発想が一緒。車の魅力を伝えるために必要なことに議論を絞るべきなんだよ」
(福田和郎)