日本の輸出規制強化が始まってから半年。韓国では規制の標的にされた半導体素材を中心に国をあげて「国産化」と「供給の多角化」に取り組んでいるが、日本企業にとって衝撃的なニュースが飛び込んできた。
世界最大の化学企業、米デュポンが韓国内に工場を建設、日本の規制品目だった半導体素材の生産を始めるというのだ。韓国はデュポンの進出を契機に、一気に「脱日本」の動きを加速させるという。
日本企業の競争力に影響を与えかねない事態だ。韓国紙で読み解くと――。
日本企業が世界市場の90%を占める素材だが......
デュポンの動きを中央日報(2019年1月9日)「デュポン、韓国でフォトレジスト生産...... 半導体核心装備の『脱日本』開始」がこう伝える。
「デュポンが半導体の核心素材『極端紫外線(EUV)用フォトレジスト』の生産工場を韓国に建設する。EUV用フォトレジストは、日本が昨年(2019年)7月、韓国への輸出を規制した3大品目の一つ。早ければ来年(2021年)から韓国内での調達が可能になる見通しだ。日本への依存度が高い素材・部品・装備の調達の多角化に一歩近づいたという評価が出ている」
韓国政府の産業通商資源部によると、デュポンはEUV用フォトレジスト生産工場を国内に構築するため大韓貿易投資振興公社(KOTRA)に投資申告書を提出した。1月9日に成允模(ソン・ユンモ)産業部長官が米国でデュポンのジョン・ケンプ社長に会って投資計画に合意した。その場でソン長官はすぐさま報道陣に発表したから、よほどうれしかったのだろう。投資規模は2021年までに計2800万ドル(約30億円)。生産工場は天安(チョンアン)にある既存の工場を増設する形をとる。
中央日報が続ける。
「EUVフォトレジストは半導体超微細工程に使用される核心素材。半導体基板(ウェハー)の上にパターンを形成する工程に使われる材料で、波長が短く微細化工程に適している。JSR、信越化学工業、東京応化工業(TOK)など日本企業が世界市場の90%以上を独占している。このため日本に対する依存度が高かった。韓国政府は昨年7月の日本の輸出規制以降、半導体素材・部品・装備の供給を安定化させるためデュポンと接触してきたと明らかにした」
「デュポンとしても新市場開拓のメリットがある。韓国の素材・部品・装備自立の動きをチャンスと見なし、新しい市場に参入することになった。ケンプ社長は報道陣に『今後、韓国国内の需要企業と製品実証テストを進めるなど、緊密に協力していく計画だ』と述べた」
デュポンの韓国への進出は、半導体の素材・部品・装備の国産化率を高める好機だ。国内産業にはプラスの効果が期待される。産業研究院のキム・ヤンペン専門委員は、
「半導体素材の供給が安定し、日本の輸出規制のような状況に対応できるようになった。国内で調達することになれば、輸入より費用の面で有利であり、現在25~30%の半導体素材の国産化率も高めることができる」
と説明した。産業部のカン・カムチャン半導体ディスプレー課長も、
「最近サムスン電子が従来の5ナノ半導体より微細な3ナノ半導体工程技術を確保するなど、EUVフォトレジストの重要性が高まっている。サムスン電子、SKハイニックス、東部ハイテクなど国内企業がデュポン進出の恩恵をこうむるだろう」
と話した。
韓国の動きを察知して輸出規制を緩めた日本政府
じつは、こうした韓国側とデュポンの動きを察知したのか、日本の経済産業省は昨年暮れの12月20日、3品目のうちレジストの韓国向け輸出規制を一部緩和した。世界市場の90%を独占しているとはいえ、韓国への輸出規制を長期間続けると自国企業にも打撃となる。記者団から日本政府がこうした措置を取ったことについて聞かれたソン・ユンモ産業部長官はこう胸を張った。
「(レジストの規制緩和は)日本の輸出規制措置を解決するうえでは一部進展があった。しかし、根本的な解決策とは見なしがたい。主要な材料や部品に関する技術競争力確保と供給元の多角化に引き続き取り組んでいく」
と強調したのだった。
日本が今さらきつく絞っていた水道の蛇口を少し緩めたとして、もう日本の水(素材・部品)には頼らない。しばらくは日本の水を飲むかもしれないが、国産化とデュポンをはじめとする他国からの供給多角化を加速させていく。いずれ日本の水を飲まない日が来るというわけだ。
その一環としてソン長官は記者団にこんな新たな計画も明らかにした。ハンギョレ(1月10日付)が伝える。
「1月9日、私たちはシリコンバレーで韓国投資に関心を持っている米国の投資家たちを対象にしたラウンドテーブルを主宰した。半導体や自動車、水素経済、再生エネルギー、情報技術(IT)、ベンチャーキャピタル分野の企業10社を招待し、韓国政府の水素経済活性化のロードマップや、主要な素材・部品・装備の競争力強化対策などに対する説明をし、韓国への投資誘致のための支援政策などを広報した」
規制品目の国産化に成功した「秘密工場」が続々?
こうした韓国政府の動きとは別に韓国の中堅メーカーからも続々と日本に依存してきた素材の国産化に成功したというニュースが昨年暮れから相次いでいる。その一つが、聯合ニュース(2020年1月2日付)「半導体材料の国産化で成果 日本の輸出規制で取り組み加速」だ。こう伝えている。
「日本政府による対韓輸出規制の強化を受けた韓国企業の素材・部品・装備の対日依存脱却、国産化への取り組みが一定の成果を収めている。韓国産業通商資源部によると、韓国化学材料メーカーのソウルブレインは(日本が輸出規制対象品目の)液体フッ化水素工場の新設・増設を早期に完了させ、高純度の液体フッ化水素の大量生産を可能にした」
韓国政府の積極的な支援を受けてソウルブレインが日本に依存してきた国内需要量のかなりの部分を供給できるようになっている。また、企業名はあえて公開していないが、同じく規制対象品目の気体フッ化水素やフッ化ポリイミドを生産する新工場も完成したという。
聯合ニュースが続ける。
「韓国国内での投資も活発だ。化学大手の暁星は昨年8月、2028年までに約940億円を投じて炭素繊維工場を増設することを発表。自動車部品大手の現代モービスは同月、エコカー部品工場の新設に約282億円を投じる計画を明らかにした」
「ソン産業通商資源部長官は1月2日、ソウルブレインの工場を訪問し、『日本による輸出規制を素材・部品・装備の競争力を強化する契機と捉え、危機をチャンスに変えていっている。素材・部品・装備を手掛ける企業がしっかりと支える産業生態系(エコシステム)を構築し、揺るぎない産業強国を実現していく』と語った」
「政府は素材・部品・装備分野の国産化のために、2020年度予算を約1972億円と前年の2.5倍に増やした。100大戦略品目を中心に、技術開発から量産までを手厚く支援する方針だ」
(福田和郎)