「よ~し、1000人を引き連れて韓国に行きましょう!」。知韓派として知られる二階俊博自民党幹事長の勇断に韓国紙は躍り上がった。
日韓関係の融和を期待して訪れた韓国国会議員団との面会の席での発言だ。多くの韓国紙は1面トップ級でこのニュースを扱った。ところが、日本の主要紙は「無視」か、取り上げても「ベタ記事」という冷たい反応。
この日韓両メディアの激しい温度差はどこからくるのか。韓国紙で読み解く――。
正月早々、安倍首相の冷たい演説に寂しい思いをした韓国政界
今年(2020年)正月、韓国政界はさみしい思いのなか、仕事始めを迎えた。文在寅(ムン・ジェイン)大統領が日本との関係復活に熱いエールを送ったのに、安倍晋三首相があまりにつれない態度を見せたからだ。
その落差の大きさを聯合ニュース(2020年1月7日付)「文大統領『日本は近い隣人』 安倍氏は『韓』一文字=新年演説に温度差」がこう伝えている。
「韓国の文在寅大統領と日本の安倍晋三首相がそれぞれ行った新年演説と年頭記者会見で、相手国に関する言及のボリュームと内容にはかなりの温度差があった。文大統領は7日に行った新年演説で韓日間の懸案を取り上げるとともに関係改善に向けて期待を示したが、安倍首相は6日の年頭記者会見で韓国について言及しなかった」
文大統領は演説で、「日本は最も近い隣人だ」とし、両国の協力関係を一層未来志向に進化させていくとの意志を示した。また、「日本が輸出規制を撤回すれば、両国関係はさらに早く発展していくことができる」と述べ、懸案について解決策も提示した。文大統領は日本に関する話題に相当な時間を割いたのだった。
一方、安倍首相は年頭記者会見で、安保政策に関して「韓米日3か国の協力」に言及した他には韓国について一切触れなかったのだ。
「東アジアの安全保障環境がかつてない厳しい状況の下、日米、日米韓の緊密な連携はもとより、ロシアや中国との協力関係を築くことは極めて重要だ」
と述べたのが唯一の韓国関連の発言だった。つまり「日米韓」という3カ国セットの安保問題でふれた「韓」の一文字だけだったというわけだ。
「二階氏と面会できたこと自体が雰囲気が良くなった証し」
それだけに訪日韓国議員団の二階俊博幹事長に対する期待は大きかった。今回日本を訪れたのは超党派でつくる韓日議員連盟の姜昌一(カン・チャンイル)会長ら5人の国会議員。1月10日行われる在日本大韓民国民団(民団)の新年会に出席するために来日したのだだが、何よりの目的は安倍政権のナンバーツー、二階幹事長に会うことだった。
その会談の模様を聯合ニュース(1月9日付)「二階氏が1000人規模の訪韓計画 韓日議連会長に明かす」がこう伝える。
「韓日議員連盟のカン・チャンイル会長は9日、東京都内で二階幹事長と面会し、韓日関係の改善策について意見交換した。日韓議員連盟の河村建夫幹事長(自民党)も同席した。カン氏は二階氏らとの面会後、聯合ニュースの取材に対し『二階幹事長は、未来の世代のためにも韓日関係をうまく解決していこうと話し、私も共にうまくやっていこうと応じた』と伝えた。二階氏は近く1000人規模で韓国を訪問すると話したという」
二階氏は2015年、韓日国交正常化50年を記念し、日本の観光業界関係者ら約1400人を率いて韓国を訪れるなど、両国の友好に尽力してきた。ところが、昨年(2019年)7月末、韓国国会代表団10人が訪日した際は、二階氏は2回も面談をドタキャンしたあげく、結局中止になった経緯がある。当時は日本の対韓輸出規制強化が始まり、日韓関係が最悪だったのだ。
今回、聯合ニュースの取材に対し、カン氏はこう評価している。
「二階幹事長との面会が実現したこと自体が(両国間の)雰囲気が良くなった証しだ」
このニュースは、韓国では多くの新聞が1面、もしくは政治面で大きく扱った。ところが日本の主要紙(1月10日付朝刊)で取り上げたのは朝日新聞、読売新聞、産経新聞だけ。いずれもベタ記事だった。毎日新聞と日本経済新聞には見当たらなかった。
ところで、二階氏は昨年9月27日、BSテレ東の番組収録で日韓関係について、「我々はもっと大人になって、韓国に譲れるところは譲ろう」と語ったことがある。この発言に韓国メディアは躍り上がって各紙1面で大々的に報じた。ところが、日本の新聞で報道したのは読売新聞だけ、それもわずか16行のベタ記事だった。
その経緯は2019年10月1日付の会社ウォッチ「【日韓経済戦争】二階幹事長の発言『韓国に譲ろう』日本ではベタ記事、韓国紙は1面トップの大騒ぎ」で、紹介した。
二階俊博自民党幹事長ほど、日韓双方のメディアで報道の温度差が激しい政治家は稀なのではないか。
(福田和郎)