2020年の世界経済を占ううえで、最大のキーマンはドナルド・ジョン・トランプ米大統領に違いない。
トランプ大統領が11月3日の大統領選で再選されるためには、米国経済の悪化や株価の下落を回避することが絶対条件になるため、2018年から続いている米中貿易戦争の激化による景気悪化などに配慮し、大統領選までは強硬な対中政策は軟化すると思われる。
それは実際に、2019年末に米中貿易協議で暫定合意第1段階が成立したことにも表れている。
米FRBの利下げ停止に「トランプ圧力」
米国議会は共和党と民主党の対立が続いており、減税やインフラ投資などの財政出動は難しい状況のため、経済政策面での景気悪化回避に取り組むことになる。このため、FRB(米連邦準備制度理事会)に対しては、引き続き、低金利政策へのトランプ大統領の圧力が継続すると思われる。
FRBは2019年後半の3回の会合で連続して予防的利下げを実施したが、年内最後の12月10、11日に開催されたFOMC(米連邦公開市場委員会)では、政策金利のFF(フェデラルファンド)金利の誘導目標レンジを1.50%~1.75%に維持することを決定。利下げ停止を明確化した。加えて、2020年の政策金利見通しについては、利下げを見込むFOMC参加者なく、利下げ停止はFOMCの総意であることが明らかになった。
一方で、パウエルFRB議長は記者会見で「利上げに動く際には、著しく、持続的な物価上昇率の加速が必要」の旨の発言を行っており、利上げへの転換は当面は見送られることになりそうだ。むしろ、トランプ大統領の圧力により、利下げが再開される可能性のほうが高いかもしれない。
トランプ大統領にとっては、政権幹部の証言により、ウクライナ疑惑への大統領の関与が裏付けられたとして、大統領訴追の可能性が出ていることは懸念材料で、この動向には注意を払う必要がありそうだ。
独メルケル首相の退任に注意
トランプ米大統領が大統領選を控えているため、慎重な行動を行う可能性が高い中で、英国のEU(欧州連合)離脱問題(ブレクジット)は引き続き経済の波乱要因になる可能性がありそうだ。
2019年12月の英国総選挙で与党保守党が勝利を収めたことで、2020年1月末に英国がEUを離脱し、移行期間に入ることになった。ただし、これまでのブレクジットの経緯を鑑みれば、今後この問題が順調に進展すると安心することはできない。
英国とEUの関係は新たな通商関係の構築のため、FTA(自由貿易協定)交渉に入り合意を目指すことになる。合意までの期間が移行期間となるわけだが、2020年末が交渉期間となっている。ただし、交渉が順調に進むか否かは不透明で、移行期間の延長が視野に入っている。
また、EUではドイツのメルケル首相が2021年の任期満了で退任する意向を表明しており、メルケル体制がレームダック状態に入ることや次期首相選びが本格化することにも注意を払っておきたい。
アジアでは、香港の民主化問題も気になるところだが、中国では2020年秋の党中央委員会全体会議(五中全会)で次期5か年計画(2021~25年)の草案が討議される予定で、これからの中国の国家運営方針を示す重要な会議となる。
国内GDP成長率は減速、怖い五輪終了後の反動
さて、国内経済については、2020年度は多くのエコノミストなどが予測しているように、実質GDP(国内総生産)成長率は2019年度から減速する可能性が高そうだ。安倍晋三政権は真水で3兆円規模の経済対策を打ち出しているが、台風19号など災害対策が中心となっており、景気を浮上させるほどのものではないだろう。
むしろ、現状の所得の伸びの鈍さや、急速に悪化している企業収益などを見た場合、景気悪化の可能性は否定できない。心配なのは、2019年10月の消費増税の影響だ。2020年には、駆け込み需要の反動、増税による消費の減速が本格化する。消費増税対策として実施されているポイント還元制度などが終了すれば、一段と景気が悪化する懸念もある。
加えて、東京オリンピック・パラリンピックの終了による反動は、景気の悪化を増幅させるリスクとして考えておく必要がある。(鷲尾香一)