【小田切尚登が読む2020年】「最高の10年」のあとはもっと最高! 変えることのできない運命を楽しもう

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   「2020年の世界を予想してほしい」というリクエストを、J-CASTニュース会社ウォッチ編集部からもらった。しかし、正直言って2020年の1年間を予測するのは非常に困難である。特にトランプ米大統領が「何でもあり」で、ハチャメチャな動きで世界情勢を引っ掻き回すようになったことが大きい。中国、中東をはじめ世界の状況は目まぐるしく変わっていて、明日をも知れぬ状況にある。

   そこで今回は長期的にとらえて、2020年からの10年について予想してみようと思う。より長期的な動きであれば、細かい事象をある程度切り捨てつつ歴史の大きな流れをとらえることができるからだ。

  • 2020年はどんな年になるのだろう!?
    2020年はどんな年になるのだろう!?
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この10年で「人類」はここまで改善した

   2010年からの10年間は人類史上最高の10年だった。もちろん、さまざまな災難に襲われた人がいろいろといることは承知しているが、全体としてみればこの時代に生きてきた我々ほどラッキーな人間はいないであろう......。こう書くと、すぐに反論の声が上がりそうなので、以下データを示していきたい。

   まず何といっても世界経済がよかった。2008年のいわゆるリーマン・ショックの後ということもあるが、中国経済がどんどん成長し、米国も堅調だった。

   株式市場では、米国を代表する株式指数のS&P500は2009年12月31日に1115.10ドルだったのが、10年後の2019年12月27日には3239.91ドルへと上昇した。3年で2.9倍に、年利だと11.2%増えたわけだ。

   米国の失業率は、OECD平均で2010年に8%を超えていたのに最近は5%未満に下がった。

   そして人類全体を俯瞰する時に、特に重要なのは途上国の状況が急激に改善していること。貧困に分類される人々は1820年には世界の人口の90%以上を占めていたが、1990年には40%超にまで下がり、さらに2015年には約10%にまで下がった。

   なかでも中国の改善は目覚ましく、1980年には中国人の84%が貧困に喘いでいたが、今は2%未満である。これにはいわゆるグローバリゼーションによって先進国の富がそれ以外に浸透していったことが大きく貢献している。

   日本を含む先進国で、エネルギー消費が減少に転じたのもうれしいニュースだ。産業が高度化している一方、エネルギー効率が向上しているためだ。産業に使う原材料の総量も減り始めた。地球環境の問題は依然厳しいが、以前は「成長は悪だ」などという話がなされてきたものが、これからは「成長こそが環境によい」という話に変わっていくのではないか。

人類の平均寿命、1900年は32.0歳だった

   飢餓は1960年代まで大きな問題だったが、その後着実に減少して世界中でほぼ消滅しつつある。現代は人口が増え続ける一方で、食糧事情がよくなっている。これは農業の生産性が改善しているためで、森林の伐採や焼き畑農業などが減少している。米NASAによると、地球上の緑地面積は2000年代初頭に比べて200万平方マイルも増えているという。

   さまざまな病気や事故が減っているのも、うれしいことだ。特筆すべきは感染症が急激に減少していること。2000年以降、はしか、結核、エイズ、マラリア...... などの伝染病による死者が大きく減少してきている。医学の発達は、累計で数十億人の命を救ってきた。

   一方で、交通事故が減ってきている。世界中で自動車や航空機の利用はどんどん増えてきているが、自動車事故も航空機事故もどちらも着実に減少している。結果として、人間の寿命は着実に伸びている。人類の平均寿命は1900年には32.0歳であったが、2010年には69.9歳に、そして2019年は72.6歳にまで伸びた。

   戦争は着実に減ってきている。20世紀は二つの世界大戦があったり、スターリンと毛沢東がそれぞれ数千万人の命を奪ったりするなど、恐ろしい時代であっが、21世紀に入り、大規模な殺戮は大きく減少している。

   21世紀の最初の10年間の最悪の事態はダルフール紛争(スーダン)であった。40万人の命が失われたと言われる。2010年以降も多くの争いが起きていて、シリアなど悲惨な状況にある。しかし、20世紀に比べれば、犠牲者の数はケタ違いに少なくなっている。

   ちなみに、テロも人類の脅威の一つではあるが、テロによる犠牲者は戦争や殺人あるいは事故による死者の何百分の一あるいは何千分の一に過ぎない。

人々は人が不幸になる話が好き

   このように、我々は素晴らしい時代を生きてきたはずだが、我々がふだん耳にするニュースの大半はネガティブな内容である。

   なぜであろうか――。一つには現代社会では大過なく人生が過ぎていくというのが前提になっていること。そのため、以前は大目に見られていた問題が現代だと厳しく糾弾されることになる。「ハードルがあがった」ということだ。

   それに「よいこと」は当たり前なのでニュースになりにくい、ということもある。健康より病気が話題にのぼりやすい、というようなことだ。

   そして、人々は人が不幸になる話が好きであるということもある。加えて、たとえば天災のように、悪いことは往々にして急激に悪くなっていくので目立つが、よいことはゆっくり、じわじわよくなることが多いので、見過ごしやすいからではないか、と科学ジャーナリストのマット・リドレーは主張している。

   もちろん、問題は少なくない。何だかんだ言っても地震や台風、豪雨などの大自然の脅威に対して、我々はまだまだ非力である。戦争は減ってきたとはいえ、ゼロになることはない。特に核兵器のように、科学技術の発達のおかげで今まで以上に大きなリスクが発生してしまったことは重要である。

   東京は地震や核爆弾によって一瞬にして廃墟になってしまう可能性を抱えているということは常に念頭に置いておかねばならない。しかし、それらを考慮に入れたとしてもなお、現時点までの10年間は、人類の英知が勝利を重ねてきた時代であった、と言ってよいのではないか。

2020年からの10年はさらに素晴らしい時代になる

   今後、2020年からの10年はさらに素晴らしい時代になるだろう。世界から貧困がさらに減り、ガンをはじめとする難しい病気の治療法もどんどん見つかり、教育と福祉が向上していくだろう。

   国際情勢が混沌としていることは気がかりだが、これは各国同士の意思の疎通が密になり、それがストレスとなっているためである。しかし、殺し合い(戦争)に発展しなければ、コミュニケーションをとることは悪いことではない。

   逆に最悪なのが、互いにだんまり、不干渉を決め込むことだ。そうすると極悪非道の独裁者が悠々と悪事を重ねることが可能になる。かのヒトラーがあそこまで勢力を拡大することが可能だった背景には、イギリスをはじめとする周辺国が不作為を続けていたことが大きい。トランプ米大統領はろくでもないこともたくさん行っているが、積極的に戦争を仕掛けようとしないところは評価できるのではないだろうか。

   世の中にはいいことも悪いことも山のように起きる。それらを総合的、客観的に判断して世の中の動向を正しく判断することが重要だ。一方で、多少のネガティブなことは「自分を鍛えてくれる試練」だと思って、受け流して前向きに生きていくことも大事だと思う。

   どうせ運命を変えることができないのならば、少しでも楽観的に生きていくほうが、人生はラクだろう。「現実」を、実際以上にネガティブなものに描こうとする人たちの尻車に乗ってはいけない。(小田切尚登)

   

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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