転職への抵抗感は薄く
連鎖退職が起こりやすい条件が最もそろっているのは、若い人が多い組織。キャリア初期にある若手は経験が少なく、ささいなことに挫折したり、逆にモチベーションが高まったりするうえ、他人からの影響を受けやすい。たまたま会社が業績不振に見舞われたタイミングで、年の近い同僚が辞めた、とか、信頼している先輩が退職した、などの出来事があると大きな衝撃となり、本人の転職の動機になる可能性が高い。
若手社員は、以前の世代に比べて転職への抵抗感は薄く、ひとつの会社に勤続するより転職してキャリアアップするのは当然との考えが強い。周囲に転職経験のある年齢の近い同僚が多くなれば、自然と退職に対するハードルは低くなる。著者の聞き取りでは同様の見解が多く聞かれたという。
連鎖退職が起こりやすい職場の環境ではほかに、規模の小さい組織、異動の選択肢・キャリアの選択肢が少ない組織というタイプが浮かび上がった。組織が小さいと、不満などによる同調行動が起こりやすく、また、前述のように、一人の退職が残った社員への負担となって退職の連鎖が発生する可能性が高い。
業務で過重な負担を感じたり、人間関係の煩わしさに悩まされたりした場合、異動により環境を変えることができれば、それが問題の解決につなげることが可能だ。
しかし、その選択肢がない場合には退職という発想は浮かびやすい。著者の聞き取りには次のような回答が寄せられた。
「『ここだったらまた頑張れるかもしれない』という部署があれば、異動願いも出せるけど、正直どこも浮かばなかっった。そうなると外を見るしかない」(建材メーカー勤務)
「辞めなくても異動の選択肢が広ければ辞めないですね。例えばDeNAはゲーム、メディア、プロ野球、遺伝子検査事業などを手がけている。また、サイバーエージェントの場合は子会社をたくさん作りながら業績をあげると同時に、意識的に若手をどんどん登用しており2年目でマネージャー、3年目で子会社を任せるなどキャリアパスが見えやすい。そうなると辞めるという選択肢は発生しづらいと思う」(元IT系企業勤務)