【年末は本を読む!】「定年消滅」時代、雇用の流動化にうまく対応するには?

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   2020年は、5Gの導入やAI(人工知能)の進化で、デジタル化がますます行き渡ることが予想されている。少子高齢化による人手不足のなか、生産や開発の取り組みに産業革命的転換がもたらされ、その結果、雇用が大変革を遂げる――。

   本書「定年消滅時代をどう生きるか」で、掲げられている予告だ。「中堅にとっても、ベテランにとっても、高齢者にとっても、無縁ではいられない雇用の流動化」が起きるという。

「定年消滅時代をどう生きるか」(中原圭介著)講談社
  • 流動化する雇用に追いつくには……
    流動化する雇用に追いつくには……
  • 流動化する雇用に追いつくには……

トヨタ、中途採用を5割に

   加速するデジタル化対応で企業は、IT系の即戦力を求める動きを強めることが必至とみられる。トヨタ自動車はすでに、技術職や事務職を含む総合職の採用で、中途採用の割合を18年度の1割から19年度に3割に、中長期的には5割に引き上げる決定をした。自動運転やカーシェアリング、電気自動車(EV)などの対応強化が迫られているためだ。産業界では、トヨタが変われば日本の企業全体も変わるといわれているという。

   好業績でしかも人手不足のはずの大企業の間ではもう、年功序列型の給与制度による負担を軽減しようと早期退職を実施しているところが増えている。本書で引用されている東京商工リサーチの調査では、19年上期(1?6月)の上場企業の早期退職者数は、18年通年を上回り、同年の2倍超のペースで推移している。

   早期退職者募集は終身雇用が定着した雇用のなかでは成り行きが不透明なところもあるが、大企業での実施ではこれまで応募は順調。当初の見込みより多く集まっているという。

   それは、デジタル化が進むなかでのもう一つの変化があるから。ITなかでも新領域に特化するなどしたベンチャー事業やスタートアップ企業が数多く生まれ、これらが早期退職したベテランの受け皿になっているのだ。

   しかも、その引き合いは旺盛で、バブル崩壊以降は困難になったといわれていた中高年の転職のハードルが低下。転職に対する負のイメージは払拭された感がある。

   「人生100年時代」といわれるように、日本がますます長寿社会になる一方で「老後2000万円不足問題」がクローズアップされたように、高齢になってからの生活の安寧が100%保証されているわけではない。

   政府は今後を見据えて、企業の雇用義務を75歳まで延長し、事実上の定年消滅時代へのシフトを進めていくと、本書は指摘。だが、それは単に働く(働ける)期間が長くなるのではなく、これまた、今までに経験したことがない大幅な雇用の構造の変化が一方にある。

   働く人たちも、これから働こうとしている人たちも「視野を広げて、持続可能な働き方を模索していかなければならない」というのが本書の主張だ。

   著者の中原圭介さんは、金融機関や官公庁を経て、現在は経営・金融のコンサルティング会社で経営アドバイザー・経済アナリストとして活動中。著書も多数ある。

   中原さんは進む雇用が流動化のなかで、どうやって自らの価値を高めるかについて、キャリアを15?20年に区切って見直す必要と具体的対策のヒントを述べている。

働く期間を3区分

   20年には働く人々は70歳までの雇用を保証される見通しというが「ただ目標もなく惰性で仕事をしているだけでは、自らが希望する仕事に従事する可能性は低くなると考えた方が無難」と著者。「人生を通して満足感を持って働き続ける」指針として、たとえば働く期間を3区分して考えることを提案する。

   (1)20~30代後半(2)30代後半~50代後半(3)50代前半~70代前半――が3区分の目安。各区分の期間に応じて、リカレント教育(学び直し)を活用するなどスキルアップを高めていくべきという。

   リカレント教育は、スウェーデンの経済学者により提唱され、経済協力機構(OECD)が取り上げたことで国際的にその意義が認知された。個人の生涯で働く時間が長くなり、学生時代に修得した知識やスキルだけでは変化するビジネス環境に追いつけなくなるため、チャージのための学び直しに注目が高まったのだ。

   国際的には有効性が確認されているにもかかわらず日本では学び直しを実践している人の割合は、各国に比べ極めて低率。英国15.8%、米国14.3%などでOECD平均は10.9%だが、日本は2.4%で平均も大きく下回っている。

   その主因は、日本の企業の長時間労働だ。働き方改革により長時間労働については是正が進む方向。また、近年は、オフィス街にサテライトキャンパスを設ける大学も少なくなく、インターネットを使った通信教育もある。

   企業が進める中途採用の対象は海外出身の人材にも枠を広げて実施される。AIが進化の後には、人間の仕事の一部を代替する可能性が指摘されている。また、人間の平均寿命が伸びるのとは対照的に企業の寿命は縮まってきており、20年以降は、人生で3つの仕事や会社を経験することが普通になることが見込まれている。

   「人生の再設計にもつながるリカレント教育が秘める可能性は大きい」と著者。競争相手が増える雇用が流動化のなかでは、その可能性はなお高まる。

「定年消滅時代をどう生きるか」
中原圭介著
講談社
税別860円

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