ライバル企業と差別化
一方、礼節を重んじるようにすれば、個人も、組織も、メリットを受けられる。個人の場合であれば、礼節を備えている人には、何かを一緒にやろうと誘われる機会が多くなる。つまり「仕事を得やすい」というのは第一のメリット。幅広い人脈を築ける可能性が高まりネットワークも広がる。「ソーシャルメディアなども発達した現代では、自ら積極的、活発に動き回って人的ネットワークを築こうとする人も多い。
ただし、熱心なだけではネットワークはなかなか広がらない。それに加えて、その人に礼節がなければ周囲に人は集まってこないだろう」というわけだ。ここで引用されているアンケート調査によると、礼節のある人は無礼な人の1.2倍、就職への推薦を受けやすい。
著者の研究によれば、企業のなかでリーダーの人物が礼節を備えていれば、そのリーダーが率いるグループ、あるいは企業全体としての業績にも好影響をもたらすことがわかっている。
礼節あるリーダーの好例は、会員制大型スーパー「コストコ」の共同創業者の一人、ジェームズ・シネガル氏という。同氏は、小売企業にとって顧客と従業員は株主より重要と考え、こまめに店舗に足を運びそこで働く人たちに声をかけ感謝を伝えた。
待遇でも努力に報いる姿勢を示し、従業員の平均時給は、競合会社であるウォルマートに比べ65%高い。コストコが従業員に向けた礼節や投資は業績に反映。同社の従業員一人あたりの売り上げは、最大のライバルであるウォルマートの子会社、サムズ・クラブの2倍近くになっている。
コストコはまた、従業員の定着率が高いのも特徴。長く勤める人が多く離職率が低いということは、1年当たり数億ドルのコスト削減効果がある。こうした「礼節」が行き届いた様子から投資家らの間での評価が高まり、2003年から13年の間に株価は200%を超えて上昇。一方、ウォルマートの株価の上昇は50%程度にとどまっている。
個人でも、企業をはじめとした組織でも、成長のための「最大の武器」の一つは、礼節や礼儀正しさという主張には、少なくとも一面の真理はありそうだ。本書の後半では、「礼節を高めるメソッド」や「礼節のある会社になるための4つのステップ」を提案。また「無礼な人に狙われた場合の対処法」について、実践的なアドバイスを授けている。
「Think CIVILITY(シンク シビリティ) 『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」
クリスティーン・ポラス著、夏目大訳
東洋経済新報社
税別1600円