米国の仕事の現場では近年、「礼儀正しさ」が減じて無礼な人の割合が増している。礼節ある振る舞いを心がける大多数の人たちにとって過ごしにくくなっており、そのことが、企業の生産性や成長にも暗い影を落としているそうだ。
本書「Think CIVILITY(シンク シビリティ) 『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」は、成長を目指す企業ならば礼節を重視しなければならないと訴える。企業内でのいじめ、セクハラやモラハラは、ガバナンスやコンプライアンスが問われるだけでなく、放っておけば企業の生き残りにかかわる問題にも発展しかねないという。
「Think CIVILITY(シンク シビリティ) 『礼儀正しさ』こそ最強の生存戦略である」(クリスティーン・ポラス著、夏目大訳) 東洋経済新報社
20年間にわたり「職場の無礼」を研究
「CIVILITY」は「礼節」とか「礼儀正しさ」を意味する。「礼儀正しさ」を指す英語というと、politeness(ポライトネス)を思いつく人が多いかもしれない。こちらは、本心からの「礼儀正しさ」というよりは、外形的なこと。それに対し、civilityは社会的に不作法、無礼でないレベルで礼儀を果たすことで、本書の原題は「Mastering Civility: A Manifesto for the Workplace」だが、そのいわんとするところは「最低限の礼儀のルール身につけることは、仕事の現場で目指すべきことの一つ」というようなものになろう。
このように呼びかけねばならないほど、米国の仕事の現場では近年、社会的にみて礼儀を欠いた行為が目にあまるようになっているらしい。本書では、その言葉は使われていないが、いわゆるハラスメントが横行しているというのだ。
2年前、メディアやSNSで著名映画プロデューサーが長年にわたるセクハラで告発され業界を締め出されたことは世界的にニュースになった。前後して、元コメディアンの上院議員や人気キャスターがセクハラを理由に辞職に追い込まれたり、解雇されたりもしている。
著者のクリスティーン・ボラスさんはワシントンのジョージタウン大学ビジネススクール准教授。自身が社会に出て初めて就職した企業で「暴君のように振る舞う」マネジャーに悩まされた経験や、父親が長年にわたり上司のパワハラに苦しめられる姿を見てきたこともあり、「職場の無礼」の研究に「人生を捧げる」ことを決め、以来、20年間にわたりその活動を続けている。
「そこで働く人が気持ち良く仕事をして大きな成果を出せるような、明るい職場や企業文化を作る手伝いをしたいと思ったものだ」と著者はいう。だが礼節の大切さを説いて歩くだけでは耳を傾けてはもらえない。そこでまず「無礼な態度がいかに大きな被害をもたらすか」を示そうと考えた。ハラスメントによる損失を数量的な明確化だ。