解雇規制の緩和で半年分の給料で解雇......
朝日新聞は極端なケースだが、大手企業の早期退職ではやはり「2年分+α」の退職金を積み増すことが相場となっている。ここで重要なのが、いわゆる「解雇規制の緩和」に強硬に反対しているのが、こうした大手企業の正社員労働組合だという事実だ。
理由は、その手厚い早期退職募集条件にある。たとえば、政府が半年分の賃金支払いで従業員の解雇が可能な金銭解雇ルールを導入したとする。すると朝日新聞社のベテラン社員は、最大で1億円にものぼる「手切れ金」の代わりに、たった半年分の給料で解雇される事態になりかねない。
これが、大手企業の労組が解雇規制緩和に反対する理由だ。
同様に反対のスタンスをとるのが中小企業の経営者たちだ。中小では大手のような手厚い退職募集条件などはないし、そもそも終身雇用すらあるかどうかも怪しい。経営者の鶴の一声で即日クビなんてことも珍しくはない。
もちろん、訴えれば勝つ余地はあるのだが、それだけの費用と時間をかけられる労働者は多くはなく、実際は泣き寝入りがほとんどだ。
中小企業で働く多くのサラリーマンにとって「一定の支払いを義務付ける金銭解雇ルールの導入」は、明白な規制強化だが、中小の経営者にとってそれは余計な出費増でしかない。
というわけで、連合と中小の経営者はこと解雇規制緩和の議論においては、がっちりとタッグを組んでいる状態だ。
メディアでもしばしば「現在でも裁判を通じて金銭解雇は可能であり、数か月分どころか10年分もの支払いを勝ち取ったケースもあるから、金銭解雇など不用」と言った論説を目にする。
そういう論者はたいてい解雇をめぐる争いを飯に種にしている労働弁護士であり、例として出しているのは朝日新聞社のような大手優良企業だ。読者の皆さんは、自分の勤める会社に、果たして数年分もの基本給を上乗せできるほどの体力があるかどうかを見極めたうえで冷静に判断すべきだろう。(城繁幸)