安倍晋三首相と文在寅(ムン・ジェイン)大統領の会談が実現。まがりなりにも対話の道筋をつけた日韓関係。
だが、そんな甘いものではなかったようだ。韓国政府の外交研究所が、来年(2020年)は互いの民族主義が何度も激突するヤマ場がやってくるという報告を発表した。
いったいどういうことか。韓国紙で読み解くと――。
最大のヤマ場は東京五輪後に安倍首相が仕掛ける憲法改正
韓国国立外交院は、韓国政府の外交シンクタンクの一つで、2015年8月に組織内に日本研究センターを開設している。対日外交案件の研究や国内外の日本研究機関とのネットワーク強化に取り組んでおり、韓国政府の対日外交の支援と助言を行っている。
その国立外交院が発表した「2020年の韓日関係の展望」について、聯合ニュース(2019年12月26日付)の「来年(2020年)の韓日関係『民族主義高まり対立繰り返す』=韓国研究所」が、こう伝えている。
「韓国国立外交院の外交安保研究所は12月26日、『国際情勢2020展望』報告書を公表し、2020年は韓日両国で国内の政治日程に合わせて過去の歴史問題と結び付いた攻撃的な民族主義が高まるとの見通しを示した」
報告書であげた「互いに攻撃的な民族主義が高まる」問題とは、主に次の4つだった。
(1)強制徴用被害者の賠償問題
(2)旧日本軍の慰安婦問題
(3)独島(日本名・竹島)問題
(4)日本産水産物の輸入規制問題
これらの事案をめぐり、日韓の対立が繰り返される可能性があると指摘したのだ。しかも、2020年は両国の政治日程で、互いの民族主義が高まる時期がいくつかあるという。
聯合ニュースが続ける。
「同研究所(韓国国立外交院)は両国内の政治日程について、日本は安倍晋三政権が2020年夏の東京五輪を機に民族主義をあおり、憲法改正のために自民党の党則を変更して総裁の4選を可能にするよう推進する可能性があると分析した。韓国については2020年4月の国会議員総選挙を挙げた」
「特に、韓国大法院(最高裁)が日本企業に賠償を命じた強制徴用訴訟判決に関連し、早ければ2020年春にも行われる日本企業の韓国内資産の現金化措置により、韓日関係が大きく揺れ動くと予想した」
「日本は輸出規制を撤回する」と都合のよい分析も
まず、2020年春に最初の激突のヤマ場がやってくるというのだ。聯合ニュースがさらに続ける。
「日本政府は、現金化が行われた場合に備え、『韓国産輸出品に対する報復課税』『日本製品の供給停止』『ビザの発給制限』などの報復措置リストを既に準備しているとされる」
一方で、韓国国立外交院は日本の対韓輸出規制措置に関して、「韓日間の強制徴用問題の協議に時間がかかっても、輸出規制は事実上撤回される可能性が高い」と分析したという。ずいぶん都合のよい分析に思えるが、その理由について国立外交院は、こう説明している。
「日本の輸出規制は自国企業に被害が及ぶうえ、グローバル供給網の混乱を招くため控えざるを得ない」
というのだ。
また、韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)については、韓国政府は終了を延期しているという立場だが、韓国国立外交院はこう分析している。
「(民族主義が高まるなど)韓日関係がどのように展開しても、現実的にGSOMIAの終了の延期を覆し、韓米関係を再び最悪の状況に追い込む可能性は低いとみられる」
北朝鮮情勢が緊迫しているなかで、韓国政府はあえて再び米国を激怒させるような真似はしないだろうというのだ。
一方、聯合ニュース(12月26日付)は韓国国立外交院の発表とは別に、「来年(2020年)の韓国外交 北朝鮮核・韓日関係・韓米同盟など難題山積」という論評記事の中で、日韓関係について、こう展望している。
「GSOMIAの終了猶予や日本の対韓輸出規制強化の一部見直しで関係改善を模索している対日関係も見通しは明るくない。12月24日、文在寅(ムン・ジェイン)大統領と安倍晋三首相が1年3か月ぶりに会談。対話を通じた解決との原則で一致したこと自体に意味があるが、歴史問題をめぐる対立など課題が山積みだ」
「最大の懸案は強制徴用被害者問題だ。両国企業と国民の自発的な寄付金で被害者に慰謝料を支給する文喜相(ムン・ヒサン)国会議長の案が有力な解決策として浮上しているが、両国とも無条件で受け入れることは難しい状況だ」
実際、文国会議長の案は日韓首脳会談の場で、韓国側から提案さえされず話題にもならなかった。聯合ニュースが続ける。
「両国の間で対話が進む中でも、GOMIAや輸出規制、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる合意、東京五輪・パラリンピック競技場への旭日旗の持ち込み、福島原発の汚染水放出問題などが持ち上がる可能性がある」
まるで、地雷原の中を歩むような話し合いを続けなくてはならず、聯合ニュースの論評も韓国国立外交院の報告同様、「お先真っ暗」といった印象だ。
(福田和郎)