韓国最大の自動車メーカー、現代(ヒュンダイ)自動車の工場では、従業員がスマホの動画を見ながら自動車を組み立てているのが問題になっている。
何とかやめさせようと会社側がWi-Fiを遮断すると、労働組合がストライキを辞さない構えで猛反発。結局、会社側はスマホ禁止の断念に追い込まれた。
しかし、会社側は再び反撃に出た。断固としてWi-Fi遮断の措置をとったのだ。巨大企業は暴走する労働組合をとめられるか。韓国紙で読み解くと――。
「動画を見ながら作業する工場がこの世のどこにある」
このトンデモない騒ぎは、2019年12月15日にJ-CASTニュース会社ウォッチでも、「【日韓経済戦争】スマホ動画を見ながら自動車を組み立てる! 韓国最大企業の呆れた実態、労組が怖くて禁止できない」との見出しで報じている。
現代(ヒュンダイ)自動車は韓国最大の自動車メーカーであるばかりでなく、グループ全体の販売台数(2018年時点)は年間740万台に達し、世界第5位を誇る。同社の蔚山(ウルサン)工場は年間160万台の生産能力を持ち、一つの自動車工場としては世界最大だ。
その工場で前代未聞の騒ぎが起こっている。従業員がスマホの動画を見ながら自動車を組み立てているため、会社側がそれをやめさせようと勤務時間中のWi-Fi接続を制限したところ、労働組合の強い抵抗にあい、断念せざるを得なくなったのだ。
そんな呆れた実態を、朝鮮日報(2019年12月11日付)「現代自動車工場内でスマホを見ながら作業、Wi-Fi提供中止される」がこう報道した。
「蔚山工場を訪問した政界関係者は本紙の取材に対し、こう語った。『スマホやタブレットでサッカーを見ていて、ベルトコンベアで車体がやってくると素早く作業し、またサッカーを見始めていた。10人いれば10人までが遊びながら働いていた。外部の人の前でもお構いなしの様子に驚いた』と語った」
「こうしたたるんだ作業が可能なのは、作業員が余っているからだ。蔚山工場の人員編成効率は55%で、100人分の作業を約200人でやっている計算だ。同じ現代自動車でも海外の工場の2倍の人員がいる。西江大学のキム・ヨンジン教授は『動画を見ながら作業する工場がこの世のどこにあるのか。現代自動車の国内工場は世界のどこにもない、おかしな工場だ』と指摘した」
そこで会社側は12月9日、安全確保を理由に作業時間中のWi-Fiを遮断することにした。しかし労働組合が「Wi-Fiの24時間接続は労使協定に入っている。福利厚生に違反する弾圧だ」と激しく反発、ストライキまでちらつかせて抵抗した。会社側はわずか2日で措置を撤回した。
労組側「スマホ禁止は労組を無力化する意図がある」
今回、再び会社側は勤務時間中のWi-Fi接続の遮断措置に出たのだった。朝鮮日報(12月24日付)「現代自動車、勤務中のWi-Fi使用を24日から再び制限へ 」が、経緯をこう伝えている。
「蔚山工場内部で操業中のWi-Fi接続を遮断することをめぐって労働組合と摩擦を繰り広げていた現代自動車が12月23日、24日午前0時から再びWi-Fi接続制限措置を実施すると発表した。現代自は今月9日にも工場内でのWi-Fi接続を食事時間と休憩時間のみ許容し、工場が稼働している時間には遮断することにした。すると、労組が強く反発したため、わずか2日後の11日、制限措置を解除した」
現代自動車の労使双方は2011年と16年、労使間の団体協約を通じ、工場内のWi-Fi設置と使用に合意している。労働者側はこれを「24時間接続が許容される」と受け取り、会社側はいわば黙認してきたのだった。
朝鮮日報が続ける。
「現代自は、再び接続制限を決めた理由として、生産職労働者が作業中に勝手にインターネットを使用し、生産効率が低下するうえに、安全事故が発生する危険性が高くなったことを挙げた。特に、労使間の協約の成立後、勤務時間に頻繁にスマホやタブレットで『別のこと』をする社員が急増し、生産性低下に関する問題が提起されていた。現代自の労使双方はその後、Wi-Fi使用時間をめぐって何度か協議したが、合意には至らなかった」
前回、朝鮮日報が社説「映画を見ながら組み立て作業、国民はこんな車に乗らなければならないのか」(12月12日付)と訴えるなど、メディアから袋叩きにあっても従業員の「スマホ作業」は収まらず、労組側もWi-Fi接続時間の協議に応じなかったのである。
朝鮮日報は、こう結んでいる。
「労組は、会社側が労組の同意なしに一方的にWi-Fi接続を制限するのは労組を無力化する意図があると主張してきた。会社側は、Wi-Fiの24時間使用自体に合意したことはなく、勤務中のWi-Fi使用は非常識だと反発してきた。労組は会社側が制限措置を実施した場合、いくつかの対応案を議論する予定だという」
今回も組合側はストライキも辞さない構えを崩さない。韓国最大の自動車企業が組合の理不尽な要求に屈服するかどうか、国民は固唾を飲んで見守っている。
(福田和郎)