前回に引き続き、「英国ポンド」を取り上げたいと思います。2019年は記録的に静かな動きとなった外国為替市場ですが、英ポンドだけは唯一「気を吐いて」動いている通貨だからです。
2019年12月12日(木)、英総選挙が行われました。事前の予想どおり、保守党が過半数の326議席を大きく上回る365議席(47議席増)と大勝。一方、労働党は203議席(59議席減)と歴史的大敗を喫しました。
この結果を受けて、英ポンドは対ドルで選挙前の、1ポンド当たり1.3150ドル前後から1.3515ドルへ、対円では144円前後から147.95円へと急騰しました。
ジョンソン首相、英ポンド急騰を演出
ちなみに、このところの英ポンドの最安値から見ると、対ドルでは9月3日の1ポンド当たり1.1958ドルが安値であり、高値が1.3515ドルなので1500ポイント以上、上昇したことになります。対円での安値は、1ポンド当たり126.55円前後で、高値が147.95円なので21円以上、上昇したことになります。
この急騰を演出したのはジョンソン首相でした。ジョンソン首相が就任した時、英国は混乱の極みにありました。メイ首相はEU(欧州連合)側と合意した離脱協定案を、英国議会で3回試みましたが可決することができず、結局辞任。議会が主導権を握り、どのようなブレグジット案であれば、英国議会の過半数を得ることができるか投票したこともありましたが、結局どの案も過半数の支持を得られませんでした。
メイ首相に代わって首相となったジョンソン氏は、何が何でも10月31日には必ず離脱すると約束しました。しかし、EU側も英国議会も納得する離脱案がないなか、どのようにして離脱を実現するのか。それは不可能に見えたので、「合意なき離脱」やむなしと市場は考え、ポンドを売り、先程の対ドル1.1958ドル、対円126.55円を示現するに至りました。
しかし、ジョンソン首相は、不可能と思われたEUも英国議会も納得するブレグジット案を見出すことに成功したのです。アイルランド・バラッカー首相がジョンソン首相の案を高く評価すると、英ポンド相場は急反転。10月のポンド円は11円の高騰を経て、先日の選挙で最高値に達しました。
急騰後の急落のワケ
しかし、問題はここからです。予想どおり選挙では保守党が勝利し、英ポンドは高値をつけましたが、その後ポンドは高値から500ポイント以上も急落しています。何が起こったのでしょうか――。
一つ目の理由は、「噂で買って、事実で売る(Buy the rumor, Sell the Fact)」。市場で典型的に起こるパターンです。選挙結果も事前にかなり織り込まれていたので、目先これ以上ポンドを買う理由が尽きてしまったのです。
もう一つの理由は、ジョンソン首相が「2020年末日」と定めている離脱期限の延長を拒否したからです。
どういうことか説明します。今後、英国は「移行期間」に入るのですが、その間にEUとの間で貿易協定を締結しなければなりません。英国側としては、関税をお互いにゼロとする、従来通りの条件でFTAを結びたいところです。しかし、EU側がどのような対応を採るかわかりません。
協議すべき内容は多岐に渡り、通常数年かかるケースがほとんどです。離脱協定案では2020年末日までにまとまらなければ2022年まで最長2年延長できることになっています。
その半面、ジョンソン首相は、できるだけ早く離脱したいという意向を持っています。英国民はすでに十分すぎるほど待った。よって、これ以上の延長は容認できないという意図です。ただ、2020年末までに貿易協定案がまとまらなかった場合、合意のないまま英国の離脱となる、いわゆる「合意なき離脱」という、すっかり忘れていたリスクが顕在化してしまうのです。
おそらく、今回もジョンソン首相は、どうにかして2020年末までにEUとの間でFTA交渉をまとめることができるのではないかと思います。「合意なき離脱」の恐怖に、ポンドが売り込まれる局面が出てきそうですが、最終的にはうまく行くのではないでしょうか。その場合、また安く売り込まれたポンドがまたもや急騰することになります。
今後のレンジとしては、対ドルでは最大1.2500ドル前後まで調整する可能性はあるかもしれません。しかし、最終的にはFTA交渉がうまくまとまり、ポンドは今度こそ1.40ドル方向を試すのではないかと思います。対円では、おそらく137から138円前後ぐらいでサポートを見つけ、高値再挑戦でしょうか。
しかし、それにはFTA交渉の進展が必要です。英ポンド、今度はEUとのFTA交渉の動向が相場を左右することになると思われます。(志摩力男)