従来型とは異なる手法
「iPhoneはただの携帯電話ではなくて優れた情報端末として、価値の基準を転換した製品だった。だからマイクロソフトの予想を覆して世界的な、しかも爆発的ヒットになった。アップルの開発者たちは、iPhoneのような端末があれば生活がもっと豊かになることを直感的にわかっていた」
「ポカリスエット」は、「飲む点滴」の発想で開発され、その後に汗で失われた成分の補給飲料に改良され誕生したが、味がはっきりしないことから1980年の発売当初はだれもが売れないだろうと考えたという。
ところが、製品コンセプトを訴え続けた結果、引き合いが出てロングセラーになったもの。「ポカリスエットはそれまでの清涼飲料の常識を打ち破った。従来の価値と違うからこそ売れた。新市場を作りあげることに成功した」のだ。
スープストックが創業した20年ほど前は、女性の総合職が目立ち始めたころ。東京都内のオフィス街はまだ男性社会で、以前にもまして頑張りが求められるようになった女性がランチタイムなどの休憩時間を過ごせる場所が少なかった。ファストフード店はくつろげない。かといって、毎日イタリアンやフレンチのレストランに行くには、金銭的にも時間的にも難しい。移動時間を考えるとランチの実質的な食事時間は30分程度。そこで、スープの専門店があれば喜ばれるんじゃないかと考えたのが事業の発端。
コトの発端だけをみると、なんだ、マーケティング的な発想じゃないかと思ってしまうのだが、じつは添加物を使わない「食べるスープ」といった、ファストフード的ビジネスながら、ファストフードとは一線を画すようなメニューのほか、カップのスタイル、サイドのパンかご飯かのチョイス、スープを食べるときに使うスプーンへのこだわり――など、1、2度味わうと、自ら気づかないうちにリピーターになってしまうような、クリエイティビティが込められているのだ。
たとえば、スプーンは、スープのすくい心地、食べ心地、口からの抜き心地にこだわった一品。新潟・燕三条の職人に依頼し、4回ほどの試作を重ね完成にこぎつけたという。カップがボウル型ではなく、なぜ植木鉢型なのかについての秘密も明かされている。
著者によると、本書は従来型マーケティングと違うマーケティングについて語る。会社でもポジションや、プロジェクトなど立場にかかわらず、事業開発や価値創出で壁にあたっている人、悩んでいる人にオススメ。事業の現場にいる人にとっては、ヒントが満載の一冊。
「自分が欲しいものだけ創る! スープストックトーキョーを生んだ『直感と共感』のスマイルズ流マーケティング」
野崎亙著
日経BP
税別1800円