インタビューをさせてもらった場所は、2階の「ブックカフェ二十世紀」だった。
壁の本棚には商品の「アメコミ」が並び、奥はイベントスペースとしてその都度様子を変える。@ワンダーは、3年前に2階をカフェに改築したという。
気軽に入れるお店を心がけて
1階の書店は天井が高く風通しのよい内装で、レジの前にはSF小説、ミステリーなどの書籍が本棚に、ぎっしり並ぶ。ひと際目を引くのは奥の映画コーナーだ。壁には大きな映画のポスターが貼られ、それに囲まれるように映画に関する雑誌やパンフレット、チラシ、当時のチケットなどがジャンル別、役者別に分類されている。ガラスケースに入った貴重な品も見逃せない。
店名の「@ワンダー」には、お客さんにとって「心動かされる出会いや発見」の場でありたいという意味を込めたと、店主の鈴木宏さんは語る。店内も「古書店らしい厳しい雰囲気」はなく、古書マニア以外にもオープンに開かれた「心地よさ」がどこか感じられるのは、そういった思いが反映されているのだろう。
店主鈴木さんの大切な1冊と、おすすめの1冊
店主の鈴木宏さんは、穏やかな口調で2冊の本を紹介してくれた。
「オススメの本は『せいめいのれきし』(文・絵:バージニア・リー・バートン 訳:いしいももこ )です。幼い頃に読んで、鮮やかなイラストと壮大な視点にこんなものの見方があるのかと、幼いながらに感動しました。本の持つ魅力に気づくきっかけになった本です」
という。
鈴木さんは、
「本はわくわくする気持ち、知りたいという気持ちを呼び起こす装置だ」
と話す。
そのことを教えてくれたのは、この1冊であったそうだ。
「売れ行き、というより今後売り出していきたいと考えているのはこの『三丁目が戦争です』(作:筒井康隆 絵:永井豪)ですね。当時あった小説家と漫画家がコラボレーションするシリーズのうちの1冊です。内容もよく、永井先生の強烈な個性も光っている。コレクターにも人気があり、珍しくよい状態のものを手に入れたので選びました」
鈴木さんが古書店を始めたのは20代の頃。大学を出て勤めたが、どこか違和感があった。もっと自由な、自分にできることは何だろうと考え、貸本屋から始めて古書店の経営にたどり着いた。
場所を変え、店を変え、さまざまなジャンルを扱ってきた。自らの好奇心に委ねる部分もあるが、古書店を営むうえで「お客さんから学ぶ」ことがとても大きいという。
「自分よりもその分野に精通したお客さんがたくさん来るので、買い付けも『この本は興味を持たれるかな』と考えながら行うことがよくあります。そういったお客さんとのやり取りは、キャッチボールをしているようでおもしろいですね」
鈴木さんは20年前に、この神保町に「@ワンダー」を構えた。時代の流れを感じながら、お客さんにどんなものを提供できるかが常に課題になるという。2階にカフェを作ったのも、アメコミを扱い始めたのも、その試みの一つであった。
「神保町の街も、古書を探す人もどんどん変化しています。そんな中で『@ワンダー』のファンを増やせるよう、これからもいろんなことに挑戦したいと思います」
@ワンダーは、映画やSFの幻想的な世界にワクワクする気持ちを呼び起こし、好奇心の入り口を教えてくれる。それは店からの一方的な提供ではなく、来店したお客さんとの双方のコミュニケーションが作り上げ、これからも育まれていくものだろう。(なかざわ とも)