金融庁がついに、「議決権行使助言会社」にメスを入れる。2019年12月11日に開催した「スチュワードシップ・コードに関する有識者検討会」で議決権行使助言会社(以下、助言会社)に対して、日本拠点における人員などの体制を整備や利益相反管理体制の整備、助言策定プロセスの具体的に公表などを求めた。
「議決権行使助言会社」とは、機関投資家に対して、上場会社各社の株主総会議案の議決権行使における「賛成」「反対」のアドバイスするサービスを提供している会社のこと。現在はISS(Institutional Shareholder Services)とグラスルイスの2社が、国際的に事実上の寡占状態となっている。
LIXIL騒動でわかった助言会社と「会社」との関係
近年、機関投資家からこれまではあまり権利行使されることのなかった議決権が、助言会社の意見によって権利行使され、株主総会でさまざまな波乱が起きている。しかし、半面では助言会社の体制や助言策定プロセス、助言内容などに対して、たとえば、
(1)助言会社のコンサルティング子会社が助言対象先企業と取引がある場合、助言内容が歪められる可能性があるという利益相反問題
(2)株主総会前までの限られた期間の中で多くの助言を行う際、助言会社の体制が十分整っているのかという問題
(3)助言会社の助言内容が正確な事実に基づいているのか、事実誤認はないのかという問題
などが挙げられる。
助言会社に対する危惧が現実となった株主総会があった。2019年6月のLIXILグループ)の株主総会だ。
2018年11月、LIXILの瀬戸欣也CEO(最高経営責任者)が解任され、創業家出身の潮田洋一郎氏がCEOに就任した。外部から招へいされた経営者(瀬戸氏)を排除し、創業家(潮田氏)が経営権を奪回した構図だが、その解任手続きに対して問題点が指摘され、投資家などから説明を求める声が強まった。
これに対して会社側が説明義務を怠ったことで、機関投資家は潮田氏らの解任を求め、臨時株主総会の開催を要求するに至った。これを受け、潮田氏は自ら辞任した。
2019年6月の定時株主総会では、瀬戸氏が株主提案により8名の役員候補を提案。会社側が独自候補を立て、両者の全面対決となった。
この時、海外機関投資家を中心に機関投資家は瀬戸氏を支持。ISSとグラスルイスの両助言会社は、会社側の支持に回った。結果は、株主提案による瀬戸氏を含めた8名全員が役員に選任される。
助言内容は「秘密」であることに価値がある
助言会社の顧客である機関投資家が、助言会社の助言に対して、その判断が誤っているとして、「ノー」を突き付けたのだ。機関投資家からは、助言会社の助言内容は「会社側に忖度したものであり、あまりにも会社側に好意的過ぎる」との声が多く聞かれた。
こうした異常な事態が発生したにも関わらず、助言会社のあり方に対する議論は盛り上がらなかった。それは何よりも、助言が助言会社と機関投資家との契約に基づいて行われ、その助言内容が「秘密」であることに価値があり、かつ株主総会後も公開されないため、助言がどのような事実に基づき行われたのか、どのような内容だったのかが明らかにならないためだ。
LIXILのように、助言会社の助言が間違ったものであったとしても、助言会社にペナルティを与えることはできない。議決権行使助言業務は、機関投資家との契約関係に基づいて行われており、日本を含め多くの国で法律などの規制がないためだ。
そこで、金融庁はスチュワードシップ・コードにより、助言会社に対する監視を強める行動に出た。
スチュワードシップ・コードとは、機関投資家が投資先企業の株主総会などにどのような態度で臨むべきかを定めた行動原則。金融庁の検討会では、助言会社に対して、以下の点を求めた。
(1)利益相反が生じ得る局面を具体的に特定し、これをどのように実効的に管理するのかについての明確な方針を策定して、利益相反管理体制を整備するとともに、これらの取組みを公表すべきである。
(2)運用機関に対し、個々の企業に関する正確な情報に基づく助言を行うため、日本拠点の設置を含め十分かつ適切な人的・組織的体 制を整備すべきであり、透明性を図るため、それを含む助言策定プロセスを具体的に公表すべきである。
(3)企業の開示情報のみに基づくばかりでなく、必要に応じ、自ら企業と積極的に意見交換しつつ、助言を行うべきである。 助言の対象となる企業から求められた場合に、当該企業に対して、前提となる情報に齟齬がないかなどを確認する機会を与え、当該企業から出された意見も合わせて顧客に提供することも、助言の前提となる情報の正確性や透明性の確保に資すると考えられる。
金融庁は2020年の株主総会がピークとなる6月に向け、春から助言会社に対しての適用を開始する予定だ。これにより、助言会社の助言が機関投資家にとって本当に有益なものとなり、企業、投資家ひいては日本経済にとって役立つものとなることが望まれる。(鷲尾香一)