花見小路はシュールなカオス
京都は観光地ではあるけれども、その成り立ちから、明示的に、また暗示的に、観光不可侵的な場所がある。とくに暗示的な場所では、それなりのマナーがあることを観光客はわかって訪れたものだが、オーバーツーリズムの影響でそのあたりの事情が一変。京都のテーマパーク化が顕著になっている。
その最たる場所が、祇園・花見小路だ。いわゆるお茶屋が軒を連ね、舞妓や芸妓が行き交う、京都五花街の一つ祇園甲部。京都名物とされる「一見さんお断り」の店が集中し、地区を挙げて格式の高さを守り、無粋な客を断固寄せ付けまいとガードを固める。
「一見さん」である観光客には縁がなく、仮に足を踏み入れても場違いさに気後れするばかりでさっさと退散するところだが、そんなことはお構いなしの外国人観光客が押し寄せ「不本意な観光地」になってしまった。
著者は現地を訪れ、花見小路の変貌ぶりを観察、報告しているが、その様子はカオスでもありシュールでもある。気後れなどとは無縁とばかりに、バックパックにスニーカーの外国人客でごった返し、お茶屋の店先では、表札や看板に触れポーズをとり写真撮影。通りを見渡すと、店先や軒下で座り込んでいる人が何人もいる。著者には「そんなことしたら大変なことになるで」との思いがいっぱいだ。
夜になって、舞妓、芸妓がお座敷に向かうころ、タクシーが止まるたびに観光客が駆け寄りカメラを向ける。素早く移動する舞妓を、一眼レフやスマホを手に笑顔で追いかける観光客たち。こうしたツーリストカメラマンたちはいま地元では「舞妓パパラッチ」と呼ばれているそうだ。