2003年に当時の小泉純一郎首相が観光立国宣言。08年には観光庁が設立されて以来、インバウンド誘致を中心に観光振興が進められてきた。その成果は目覚ましく政府の予想を超える勢いで外国人観光客が増え続けている。
ところが予想を超える増加は度が過ぎると「暴走」にもなりかねず、その被害がすでに表面化している。「オーバーツーリズム」と呼ばれる、過度の観光地化。最も顕著に表れているのが、世界で最も人気のある観光都市の一つ、京都だ。
「パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市」(中井治郎著)星海社
外国人宿泊客数、2018年は450万人!
本書「パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市」は、主に外国人観光客であふれる京都市内の様子を詳しくみながら、あちらこちらで見つかる問題を指摘。地元関係者らの取り組みを解説した。
著者の中井治郎さんは、観光社会学を専門とする社会学者で、本書が初の単著。学生時代を京都で過ごし、母校の龍谷大学で非常勤講師を務めながら、かつ「三条通」で暮らしながら、街を観察し京都の観光を考えている。
「観光立国」への歩みを始めた日本の中で、京都は最も成功した都市の一つ。ところが成功の度過ぎ、押し寄せる観光客の波に最も早く悲鳴を挙げ、著者がいち早くそれを察知した。
京都市は山々に囲まれた小さな盆地。市内は「どの飲み屋で終電逃しても歩いて帰れる」と言われるほどの「広さ」だ。その中で京都御所や離宮、神社仏閣など、ひしめく観光名所はいずれも広大な敷地を占有。景観行政でタワーマンションなどはなく、約150万人の市民は窮屈な街に押し込められている。
そこに毎年5000万人以上の観光客がやってくるのだから、中心部ではとくに、年がら年中カオスに見舞われているという。
観光客は国内外から訪れるのだが、このカオスの原因の大きな部分を占めるのはインバウンドの激増。2011年には50万人程度だった外国人宿泊客数はその後に加速度的に増加。18年には9倍の450万人まで膨れ上がっているのだ。
いまでは京都の街中は、観光名所ばかりではなくあらゆる場所で、大きなキャリーケースを転がしながら歩く外国人客らで渋滞している様子がみられる。地域住民と観光客の動線が幾重にも重なるようになり、バスなどの公共交通機関や道路、さらには商店など、地元の生活インフラの使い勝手が脅かされている。