世界初となる液化水素運搬船がお目見えした。今後、オーストラリアで製造した液化水素を、日本に輸送する実証試験が本格化する。
水素は利用段階でCO2(二酸化炭素)が発生しないクリーンな次世代エネルギーとして注目される。海上大型液化水素運搬船は、水素社会の実現に向けた「大きな節目」と、関係者は受け止めている。
「巨大な魔法瓶」のようなタンクを搭載
「感無量です」――。2019年12月11日、神戸市の川崎重工業神戸工場で進水式が開かれた「すいそ ふろんてぃあ」。全長116メートル、総トン数約8000トンの運搬船進水式を間近で見守った、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の次世代電池・水素部 燃料電池・水素グループの横本克巳主任研究員は、そう語った。
「水素社会実現のための大切なキーワードは『大量輸送』。現状よりも大量に安全に水素を運ぶ技術が確立することで水素コストが削減され、それが水素の普及につながります」
その水素大量輸送を担う大きな運搬船が、大勢の人の前に初めてお目見えしたのだ。
「すいそ ふろんてぃあ」には今後、液化水素の貯蔵タンクが搭載され、2020年秋ごろの完成をめざす。その後、大量の水素を効率よく安全に輸送することができるかどうかを確かめる海上での実証試験に移る。
オーストラリアの「褐炭」を現地でガス化して水素を精製。それを現地で液化し、体積を800分の1に減らして日本に海上輸送――。総事業費約400億円とされるこうした「国際間水素サプライチェーンの構築」をめざす実証事業は、2015年にNEDOが主体となって始め、2016年には事業主体となる技術研究組合の「CO2フリー水素サプライチェーン推進機構(HySTRA)」が設立された。
組合員は、川崎重工、岩谷産業、シェルジャパン、電源開発、丸紅、JXTGエネルギーで、2030年ごろの商用化をめざす。
NEDOは、褐炭ガス化事業に加え、「すいそ ふろんてぃあ」の液化水素貯蔵タンクの開発に資金を助成。運搬船の心臓部といえる貯蔵タンクは「真空断熱二重殻構造」で、いわば巨大な魔法瓶のような構造だ。マイナス253度の極低温で、液化水素を運ぶためには欠かせない仕組みで、かつ海上の振動にも耐えなければならない。「技術開発がまだ必要になってくる」(横本主任研究員)という。
2020年はますます注目
「すいそ ふろんてぃあ」を使う液化水素輸送の一方で、NEDOはトルエンに水素を反応させて転換したメチルシクロヘキサン(MCH)の状態で水素を輸送する事業も進めている。
11月には、この方式で水素を運搬する船が日本に向けてブルネイを出航した。液化水素とMCH。この二つの方式のメリット、デメリットをNEDOは今後調べていくという。
燃やしても温室効果ガスが出ない水素エネルギーを利活用する動きは、最近各国でも急速に進み、欧州では水素燃料の燃料電池電車が製造され、中国でも燃料電池自動車の普及が図られる。
もっとも水素活用の研究開発を、NEDOは1980年代から始めていたという。家庭向け燃料電池や燃料電池自動車(FCV)などのベースとなる技術もこれまで蓄えてきた。
温暖化対策が世界的に迫られるなか、日本政府は、日本が排出する温暖化ガスを21世紀後半の早い時期までに実質ゼロにし、そのための重要なエネルギーとして水素を位置づける戦略をまとめた。2030年の水素社会実現に向けて具体的な目標を定めた「水素・燃料電池戦略ロードマップ」も策定済み。将来の市場規模拡大も期待しながら、官民あげる形で水素を利活用する動きが進み始めている。
2020年3月には、やはりNEDOが助成する、水素を再生可能エネルギーから作り、利用する世界最大級の研究施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」で、実証運用も始まる予定。「すいそ ふろんてぃあ」の実証試験と併せて、来年は水素がますます注目される年になるかもしれない。