還暦の祝いも兼ね、数年ぶりに10日ほどの休暇をとって親戚たちとハワイに行ってまいりました。我々の年代の旅行はあちこち観て回るよりも、気の置けない人たちとリゾート気分でのんびり過ごすのが何よりいいものです。
心底リフレッシュさせていただいた休暇でした。
犯罪とは断言できないサイトのつくりに「やられた!」
旅行から帰ってみると、ちょうど1通クレジットカードの請求書が来ていたのですが、そこには一見身に覚えのない請求が掲載されていました。金額は104ドル。今回の旅行絡みであることは間違いなさそうでしたが、旅先でのカード利用が回ってくるにはちょっと早いのでアタマを巡らせてみると、一つだけ思い当たるものがありました。旅行前1か月の段階で手続きをした、ESTAと言われる米国入国の短期ビザの申請費用です。
もしそれなら、米国政府からの請求になるはずなのですが、米国政府らしき記載はなく請求先名の一部にESTAの文字があったのみ。しかし、金額は明らかに違います。私が聞いていた米国政府宛の申請手数料は14ドル。カード請求の104ドルでは90ドルも高いのです。これはおかしい。米国政府が請求額を間違えるはずはないとは思ったのですが、確認をするなり問い合わせをするなりしてみようと、申請時のページに再度アクセスしてみました。
アメリカ国旗で飾られたページで、申請時と同じように個人情報を打ち込んで、先に進んでいきつつページ内をくまなく探ってみると、通常の申請流れでは目にしないようなところに、しかも小さくかつ薄い色の文字で「本ページは米国政府と一切関係ありません」「当社はESTAの申請代行です」「ESTA申請は代行手数料込みで104ドルとなります」などと、書き込まれているではないですか。
「やられた!」。ここで初めて気がつきました。「ESTA申請」検索で上位に来たページを正規の米国政府による申請ページであると信じて、申請代行会社のページに情報入力をしてカードでの引き落とし手続きまでしてしまったのです。
完全に騙されました。すぐさま知り合いの弁護士に相談すると、旅行客を騙そうという意図は明確でありながら、ページからは犯罪とまでは断言できない巧みなつくりで、これだけでは警察沙汰にはできないと。しかし仮に訴えれば、明らかに錯誤を誘導するページであり、手数料返還は確実に命ぜられるであろうとも。
ただ、被害金額が90ドルでは訴訟費用のほうが高くというのがネックであるとも。つまりは、じつによく練られた、巧妙な詐欺まがいの手口に引っかかってしまったわけなのです。なんともお恥ずかしい限りです。
「非常に心苦しく思います」けど......
しかし、ネットで調べてみると、同様の被害を嘆いたり怒ったりしている人はかなり多く、或る方の調べでは似たような詐欺まがいページはいずれも海外のグレー業者で合計10サイト近くもあるそうです。
つまり、同様の被害者はかなりの数にのぼっているであろうことが想像に難くありません。私としてはこのまま黙って身の覚えのない手数料を取られるのは腹立たしいので、弁護士のアドバイスを参考しつつ、とりあえずクレジットカード会社に事情を話して不当請求として支払いを止めてもらう申し出をしてみることにしました。
カード会社の窓口担当は、かなり親身になって相談には応じてくれました。しかし、その場での結論は、「ご事情はよくわかります。しなしながら業務手続き上、加盟店様からのお申し出以外は支払いの取り消しおよび停止は致しかねます。警察または裁判所からの正式な依頼であれば例外的にお受けできますが......。非常に心苦しく思います。申し訳ございません」というものでした。
業務手続き上は、加盟店との契約上からの判断優先で、「被害者の泣き寝入り、黙認やむなし」ということなのでしょう。私も銀行にいたのでそのあたりはよくわかります。しかし、完全に詐欺的なやり口で次々善意の第三者から想定外の手数料を巻き上げるようなビジネスは、決して野放しにしていいものではありません。
そこで、しかるべき管理者の方に対応を代わっていただき、再度業務上という観点を離れた視点で相談を続けました。
具体的には、こちらが経験した流れを詳細に説明し実際に体感してもらうことでページのつくりを理解し、被害者がどのようなルートでそのページ変遷に取り込まれ、最終的にカード会社のカード決済に至るのかを検証してもらい、当該加盟店のビジネスモデルの不当性に理解を求める。その上で、業務上ではなく道義上の判断から、カード決済の停止並びに取引の解消の検討をしてもらいたいという申し出です。
「道義上」対応の必要性があるかもしれない
問い合わせ窓口の担当-役職者レベルでは、「残念ながらできません」一辺倒だったカード会社も、本社管理者レベルでは私の申し出を前向きに受け止めて、社内で検証・対応の検討をするという約束をしてくれました。
結果はまだわかりません。時間はかかるでしょう。しかし企業として、業務マニュアル上はできないとの判断に至るものであっても、道義上からは対応の必要があるかも知れないと考えることは非常に重要な姿勢です。
コンプライアンスという言葉は、ややもすると「法令遵守」という誤った日本語訳に引っ張られて、「法令違反さえなければ問題なし」としがちな傾向があります。しかし、真のコンプライアンスはむしろ法令違反の有無にのみ縛られることなく、モラルの観点から経営判断を見誤らないことがポイントであり、その重要性はもっと組織内外で言及されるべきではないかと、今回の件で改めて強く感じさせられた次第です。
最後に、今後米国に旅行される方、ESTA申請では米国政府ページを模した詐欺まがいのページに騙されることのないよう、十分な注意を払われることを申し添えておきます。
なお、私の手数料は、並行しておこなった当該ページ業者への強硬なクレームにより、無事返還されることになりました。(大関暁夫)