「鎖国」が生んだイノベーション
日本で育った著者は、中国の技術革新と社会変革に大きな衝撃を受けた。それは、昔ながらの貧しい中国のイメージがどこかにあるからということや、インターネット環境が政府による強力な統制下にありサービスやコンテンツが厳しく制限されていることを認識しているからだ。貧しいイメージは上海の街をみればすぐにも誤解とわかるが、IT系についても、よくよく知ると間違った理解であることがわかるという。
中国政府のインターネット規制は、GAFAといわれる米国のグーグル、アマゾン、フェイスブック、アップルをはじめとする外国IT企業が中国へ進出することを断念させ「鎖国」状態を招いた。その結果として、中国国内では多くのスタートアップが生まれ、14億人という世界最大の市場を囲い込む形で、独自のチャイナ・イノベーションを生み出すことになったのだ。著者によれば、その集大成として、いま、最前線にあるのがTikTokであり、Douyinだ。
SNSをめぐって始まっている大きなトレンドの変化は、「テキスト・画像から動画へ」という流れという。インスタグラムなどでも動画アプリが加えられている。中国ではこの動きが先行しており、Eコマースサイトでも商品説明は動画だ。TikTokはこの動きにもうまく乗っている。
インターネットのメーンの使い方の一つは「検索」だが、機械学習、AI(人工知能)の開発が進むにつれて、とくにSNSでは、自分で探す検索よりも、レコメンドが望まれるようになっている。著者は、TikTokが世界最強のSNSになり得る理由の一つとして「レコメンド機能」の強さをあげる。バイトダンス社では、機械学習で強力な技術を備えており、利用者ごとに最適化された動画をお薦め(レコメンド)してくれるという。ユーザーがアプリを使えば使うほどその精度は高まる。
TikTokでは広告の動画もレコメンドで組み込まれ、コンテンツに溶け込むように編成されるなど、連続視聴を促す仕様になっており、YouTube(ユーチューブ)などにはない設計上の優位点という。
このレコメンド機能の強化が可能なのは、キャッシュレス革命でもいえることだが、国民が個人情報のほとんどを政府に管理されていることから、便利になるなら個人情報をプラットフォームに提供することに抵抗感がないという中国固有の事情に依存するところも大きい。
こうした点からすれば、Tik Tokばかりでなく、中国生まれのプラットフォームが世界で「革命」を起こすのは、国内で果たしたほどには容易ではないともいえそうなのだが。
「TikTok 最強のSNSは中国から生まれる」
黄未来著
ダイヤモンド社
税別1500円