日本人の給料、安すぎる! いまだ最盛時を下回る 「本気」の高給志向の人が進むべき道は......

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   国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、民間企業で働く人が2018年1年間で得た給料は平均440万円。6年連続の増加と、労働者にとってはうれしいニュースだったのだが、本書「日本人の給料はなぜこんなに安いのか 生活の中にある『コスト』と『リターン』の経済学」は、喜んでばかりではいけないとクギを刺す。

   じつは給料は1990年代末から下降を続け、20年ほどして下げ止まり、上昇に転じたがペースは緩く、いまだピークだった1997年よりかなり低いレベルなのだ。

   デジタル化が進む現代では、IT系の企業のなかには高報酬の会社があることが知られるようになり、自分の給料の安さに不満を感じている人も少なくないはず。転職市場を活発化させている原因の一つでもある。本書では、給料の安さに不満を感じる人に向けては、「コスト」と「リターン」を考えた上でのアクションをアドバイスしている。

「日本人の給料はなぜこんなに安いのか 生活の中にある『コスト』と『リターン』の経済学」(坂口孝則著)SBクリエイティブ
  • もらってる給料、時間と労力に見合ってる?
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リーマン・ショックでドカンと下落

   日本人の給料は実は7年前までは右肩さがりの状態。本書で引用されている国税庁の統計によると、1997年に467万円に達したのをピークとして下がり続け、リーマン・ショック(2008年)をきっかけにガクンと急降下。2009年には406万円となった。その後はゆるやかに上昇しているものの、まだ1997年の水準には届いていない。

   リーマン・ショックは世界的なこと、給料の低空飛行化は日本だけではあるまい――。そう思いきや、日本人の給料は先進国との比較では「決して高いと言えないどころか、むしろ低い位置にある」という。

   とくに「一番お金が必要な時期」である30代半ばから40代では、10年前に同世代がもらっていた給料に比べて少ない額しか得られていない。2000年代初頭にITバブルが崩壊し就職をめぐる状況は「氷河期」だった。このとき社会に出た、現在のアラフォー世代は就職氷河期で苦しんだだけでなく、その後の給料水準ダウンも強いられる。さらに、この10年間の給与改定では、売り手市場に転じた就活でのアピールのため若い世代に厚く、働き盛りは抑えられるなどの経緯もあり、いまの40歳がもらっている給料は、10年前の同年齢より1割少なくなっている。

   2001年に大学を卒業してメーカーに就職したという著者の坂口孝則さんは、まさにこの世代。「若い頃、上司から『上になったら、今度はお前が部下に奢ってあげろ』と言われていました。しかし、われわれ世代でこれができる人はなかなかいません」と、余裕がないことを嘆いてみせる。坂口さんはその後、会社員時代の経験を生かして、調達・購買コンサルタントとして独立。バイヤーの立場から見たビジネスのあり方について著書などで情報発信。テレビの情報番組にもコメンテーターとして出演している。

「製造業のベース」がいまでも

   日本人の給料はなぜ安いのか――。本書では(1)日本の社会は「製造業」がベースになっているから(2)労働者の流動性の低さ――などを理由に挙げる。

   日本の高度経済成長を支えた製造業では、工場のラインなど製造工程はだれもが従事できるよう標準化され、作業員の代替が重視された。突出した才能の持ち主の個性ではなくチームの力が必要だからだ。仮に天才的な能力を備えた作業員がいても、製品の製造は協同作業だから、会社にはその個人の給与を上げたい動機を持つことがない。「よくも悪くも、平等主義が蔓延する。日本は製造業で国を大きくしてきた。日本は雇用について、この製造業のスタイルがベースにある」のだ。

   雇用を保証しながら給料を抑えて製造コストを下げ、労働者は熟練していくので品質が向上する。世界のなかで非常に高い競争力を保ち、ハイペースで成長を遂げたのだ。だが、時代が変わって、成長期の間に確立された製造業的な「終身雇用」や「横並びの安定した給料」が、いまの日本人の給料の安さを導いているという。

   「労働者の流動性の低さ」が、給料を安くしている仕組みはこうだ。

   海外企業と日本の間で、人事採用の彼我の違いをシンプルに表すと、海外企業では「年収1000万円だが成績次第では1年しか雇用しない」、日本企業では「年収500万円でずっと雇用」―のような感じになる。前者は会社側がリスクプレミアム分の金額を上乗せし人材を確保しようとするもので、その代わり、その人材が不向きの場合には解雇できる。労働者は契約更新にしても転職にしても新たにリスクプレミアム分を得られるだろう。後者は、長期の安定雇用を条件に給料を抑えて人材を確保しようとするもので、会社にとっても負担になる場合でも雇用の継続が求められる。

   こうしたことから日本では、35歳から54歳までの男性が、入社からずっと同一企業で働く率が先進国の中でも上位にあり、基本的に雇用の流動性が低い。転職しても管理職になれるケースが少ないことも、流動性を下げる一因になっているという。それだけにリスクプレミアム分の高給は実現しにくく、給料はおのずと低い水準にとどまるというわけだ。

高給志向が本気なら...

   「給料が安い」と感じるところにとどまっても、劇的に上がる可能性はほとんどないので「給料を上げたい」と思うなら、「転職」か「独立」あるいは「副業」を考えることになる。本書によると、稼げる可能性の高さの順は、(1)独立(2)転職(3)副業――だが、リスクも同じ順という。

   著者が「独立したい」と相談をうけたら即、「やめたほうがいい」と答えるという。「そうアドバイスされただけで踏みとどまるのであれば、独立なんてやめたほうがいいと思うから」だ。待ったをかけられたくらいで回れ右をするようでは、成功はおぼつかないという。

   だが「本気」な場合に限っては、転職でも独立でもトライしてみる価値はあるそうだ。「なぜなら、日本はリスクとリターンが歪んでいるから。失敗しても生活保護や再就職支援が手厚く『日本では絶対に死なない=リスクがじつは少ない国』。だから成功したらそれこそ儲けもの。腹を決めて決断することを私は勧める」

   「給料」を理由に転職を考えながらもぐずぐずしている人には、背中を押してもらえる一冊。

   本書ではほかに、「年金は払い損にならないか」「消費増税下の大物買いは損なのか」などのテーマについて、コストとリターンの面から論じていて、いずれも興味深い。

「日本人の給料はなぜこんなに安いのか 生活の中にある『コスト』と『リターン』の経済学」
坂口孝則著
SBクリエイティブ
税別830円

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