「製造業のベース」がいまでも
日本人の給料はなぜ安いのか――。本書では(1)日本の社会は「製造業」がベースになっているから(2)労働者の流動性の低さ――などを理由に挙げる。
日本の高度経済成長を支えた製造業では、工場のラインなど製造工程はだれもが従事できるよう標準化され、作業員の代替が重視された。突出した才能の持ち主の個性ではなくチームの力が必要だからだ。仮に天才的な能力を備えた作業員がいても、製品の製造は協同作業だから、会社にはその個人の給与を上げたい動機を持つことがない。「よくも悪くも、平等主義が蔓延する。日本は製造業で国を大きくしてきた。日本は雇用について、この製造業のスタイルがベースにある」のだ。
雇用を保証しながら給料を抑えて製造コストを下げ、労働者は熟練していくので品質が向上する。世界のなかで非常に高い競争力を保ち、ハイペースで成長を遂げたのだ。だが、時代が変わって、成長期の間に確立された製造業的な「終身雇用」や「横並びの安定した給料」が、いまの日本人の給料の安さを導いているという。
「労働者の流動性の低さ」が、給料を安くしている仕組みはこうだ。
海外企業と日本の間で、人事採用の彼我の違いをシンプルに表すと、海外企業では「年収1000万円だが成績次第では1年しか雇用しない」、日本企業では「年収500万円でずっと雇用」―のような感じになる。前者は会社側がリスクプレミアム分の金額を上乗せし人材を確保しようとするもので、その代わり、その人材が不向きの場合には解雇できる。労働者は契約更新にしても転職にしても新たにリスクプレミアム分を得られるだろう。後者は、長期の安定雇用を条件に給料を抑えて人材を確保しようとするもので、会社にとっても負担になる場合でも雇用の継続が求められる。
こうしたことから日本では、35歳から54歳までの男性が、入社からずっと同一企業で働く率が先進国の中でも上位にあり、基本的に雇用の流動性が低い。転職しても管理職になれるケースが少ないことも、流動性を下げる一因になっているという。それだけにリスクプレミアム分の高給は実現しにくく、給料はおのずと低い水準にとどまるというわけだ。