英語をモノにするには、まず強い動機や意欲が必要――。本書「日本人のための英語学習法」の指摘だ。
この本は、地道なトレーニングを基本とした学習法のアドバイスをまとめている。本気で英語を身につけたい人に向けた英語力の向上には、コレしかない!という。
「日本人のための英語学習法」(里中哲彦著)筑摩書房
「ラクして身につく学習法」は宣伝文句だけ
著者の里中哲彦さんは、大手予備校の英語科専任講師を務める著述家、翻訳家。英語や英文法のほか、米音楽史やビートルズについてなどの著書がある。かねてより、日本人の英語学習史に興味を持ち「先人たちの英語学習からヒントを拾い集め『究極の学習法』を探ってきた」
里中さんは、なぜ英語ができないかということを考える前に、わたしたちはなぜ日本語ができるのかを考えてみたという。日本人だから? 日本で生まれ育ったから? 「いずれも違う。日本語をみっちり学習したから。わたしたちは日本語のトレーニングを積んだからこそ、日本語ができるようになった」のだ。日本人にとっては日本語が話せることが当たり前になっていて、あたかもまったく学習せずに日本語を習得したかのように錯覚してしまいがちという。
日本人の多くは、学校の授業で勉強しているとはいえ、日本語のようには英語を身につけられるようなトレーニングを本気でやっているわけではない。そこまでする「必要性」や「切実な動機」がなく、英語に親しみを持つようになるのは、個人の事情次第だった。
「究極の学習法」を探った著者によれば、英語学習は複合的であり、段階的であり、個別的。「ラクして身につく学習法」や「奇跡のメソッド」は英会話教材の宣伝文句だけのことと確信を持つに至ったという。
「学びなおし」に最適
英語に親しみを持たぬまま、進学、就職と進み「英語を使えるようにならなければならない」という状況となった場合、日本人の多くは、英語を日本語と同じように使いこなしている様子をイメージする。だが「どれほど努力しようと、ネイティブのようなリズムと発音で英語を話すことはできない」ことは、学問的にも唱えられている。だが、リーディング、スピーキングの専門家がそれぞれの理想像から高度な能力の獲得を要求し「結果として、学習者にネイティブになれない屈辱感を味わわせている」という。
だが、じつはさまざまな調査や実験によれば、日本人の英語は、ネイティブスピーカーらの間で高い理解率を示している。日本語であっても日本人に100%理解してもらっているわけではないので、ああニッポン人だなとわかる「日本人英語」でもコミュニケーションとしては十分なレベルなのだ。
英語は、日本語話者に日本人にとっては「手段」であり「道具」。「『日本人の英語』でかまわないのだと開き直って、それぞれの必要性に応じて『英語という道具』を使いこなしてしまったらどうでしょうか」というのが、本書の提案だ。だが「道具」とはいえ、個人の「自前の英語」に応じたトレーニングは必要だ。
本書では、「英語に対する『心がまえ』」「『音読』と『読み書き』」「『話す』と『聞く』」「『語彙』と『文法』」などのカテゴリーにわけ、70項目のコツを解説。「学びなおし」を考えている人をメーンの読者に想定し、学校の授業で分かりにくかったと思われる文法については、紙数がより多く割かれている。
ちなみに、初心者が英語を学ぶサポートには、さまざまなジャンルがある映画より、ドラマやアニメがオススメという。日本語を映画で学んだ米国人が「はじめまして」のつもりで「おひかえなすって」と発したことが失敗例として紹介されている。
別の出版社から出されている同名の書籍があるのでご注意を。
「日本人のための英語学習法」
里中哲彦著
筑摩書房
税別840円