近年しばしば耳にする「人生100年時代」には豊かさを感じさせる響きがあるが、高齢化、長寿化にともないさまざまな社会課題が浮上しており、多くのの人は、この言葉に複雑な思いを抱いているに違いない。
本書「超高齢社会の『困った』を減らす課題解決ビジネスの作り方」は、高齢社会を新しいビジネスチャンスと捉えて動き出しいる事業をルポ。「イノベーション・マインドを持つ人の輪」が広がれば、人生100年時代は真に豊かになる可能性が高まる。
「超高齢社会の『困った』を減らす課題解決ビジネスの作り方」(斉藤徹著)翔泳社
大切なのはイノベーション・マインド
著者の斉藤徹さんは電通シニアプロジェクト代表。流通業界を経て電通に入り、シニアマーケティンク?や高齢社会における事業・商品・施設の開発などを担当。幅広く高齢社会関連ヒ?シ?ネスに関わり、いまは、さまざまな視点から豊かな高齢社会を実現するための活動に取り組んでいる。2016年から「ヤフー!ニュース 個人」の執筆者となり、高齢社会をめぐる課題に取り組む人たちを取材、寄稿。本書は、その内容をベースに追加取材をして大幅に加筆修正したものだ。
具体的な事業では「介護の質を向上させるパワースーツ」や「認知症高齢者を発見するQRコード」など、テクノロジー系のものが少なくない。そのなかで、事業継続が困難になっている場合が多い「移動販売ビジネス」のユニークな成功例が報告されている。
徳島県の株式会社とくし丸が運営する「とくし丸」。株式会社とくし丸は徳島県でタウン誌を発行している会社で、中山間地域で暮らす経営者の母親が買い物難民となったことをきっかけに12年、軽トラック2台を使って事業をスタートさせた。
多くの移動販売事業が伸び悩むなか、とくし丸が拡大に成功したのは独特のビジネスモデル。それは、本部は直接、移動販売は行わず、「とくし丸」ブランドと事業運営のノウハウ、販売パートナーの人材募集、顧客探しとルート作成や、軌道に乗るまでの指導などを、提携先の地域スーパーに対し行っている。提携先スーパーからは契約金やロイヤリティーを得ている。
販売価格は、スーパー店頭価格に10円を上乗せ。これを手数料とし、地域スーパーと販売パートナーが折半。粗利率は30%に達し、地域スーパーと販売パートナー、とくし丸の三者ともに利益を得る構図になっているという。
「イノベーション・マインド」を発揮したとくし丸の提携スーパーは19年、全国44都道府県に広がり、販売車両は400台以上に。開業から7年目となるが、売上は月販8億円を超え順調という。同社が徳島県で始めたビジネスは全国に拡大の一方、16年5月に、ネットスーパー大手、オイシックスの資本参加を受け新たな事業ステージ入っているという。今後各地で、買い物難民の救世主になる可能性を秘めている。
「超高齢社会の『困った』を減らす課題解決ビジネスの作り方」
斉藤徹著
翔泳社
税別1700円