「行きたい」「行こう」と思える地域に! 観光振興のカギはブランド化

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   NHK大河ドラマの舞台になった場所では観光特需が生まれ、放映期間中の行楽シーズンには客でごった返すことは、ほぼ毎年の現象だ。しかし、急激に伸びた需要は長続きはしないもの。観光振興で大切なのは、一度来た観光客が、繰り返し訪れてくれることだ。

   続くインバウンドの増加で、全国的に観光による地域振興の機運が高まり、各地で誘致・誘客のキャンペーンが盛んだが、地域間競争の側面もあり、いつかは疲弊し共倒れにもなりかねない。本書「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」は、日本が真の観光立国になるためには、各地域が一過性ではない「引力」を持つブランド化が大切と説く。

「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」(岩崎邦彦著)日本経済新聞出版社
  • 地域の引力を高めるためには「ブランド」化が必要
    地域の引力を高めるためには「ブランド」化が必要
  • 地域の引力を高めるためには「ブランド」化が必要

京都は不滅のブランド観光地

   教科書」である本書には、さまざまな提案が示されている。提案は著者らが行った消費者調査に基づく。観光客に「行こう!」と思わせることが「ブランド」であるとして、調査でわかった「観光客の目線」で検証した。

   「ブランド」というと、高級、あるいは高価なイメージや、ヨーロッパなどのファッションブランドを思い浮かべる人が多いはず。果たして、地域が「ブランド」になれるのだろうか――。

「日本の地域で『ブランド力』があると思う地域は『○○』である」

   全国の消費者に、この文章を示して『○○』に入ると思う地名を入れてもらうという調査を行ったところ、選択肢なしだったが、96%の回答者が具体的地名を記述。このことから、「地域がブランドになり得る」と確認できるという。

   調査では、ブランド力がある地域としては、「京都」をあげる人が最も多く全体の3割オーバー。ついで「北海道」「東京」「沖縄」「大阪」の順だった。

   京都をめぐっては、後々まで記憶される有名な観光キャンペーンが展開された、そのコピーは、「そうだ、京都、行こう」。「『行こう』という言葉は、売り手・地域側の想いではない。買い手・観光客の想いである。観光客に『来てください』と頼むのではなく、観光客が『行こう』と思う。これが、ブランドだ」と、著者は指摘する。

   京都を訪れる観光客は、「誘客」に応じて来たのではなく、京都が持つ何かに引き付けられたからこそ訪れたのだ。インバウンドも増えているが、リピーターが多いことで、京都は観光地として「不滅」を誇る。確立された観光ブランドの代表だ。

「地名」と「ブランド」の違い

   著者の岩崎邦彦さんは、静岡県立大学経営情報学部教授で、主な研究テーマは地域に関するマーケティング問題。学長補佐と地域経営研究センター長を兼ねる。

   国民金融公庫、東京都庁、長崎大学経済学部助教授など経て現職に就いた。近年、主な各地での地域振興は、観光への依存を強めており、それも頼みはインバウンド需要だ。岩崎さんは、それが過度になると危険でもあり、持続可能な観光発展のため、ブランド重視の提案を企図したものだ。

   消費者調査で「興味深い結果」に出合ったと岩崎さんは述べ、そのことがブランドつくりのヒントになるのではないかという。

   興味深い結果というのは、たとえば、「『長野県』には行きたいと思わないが、同県の『軽井沢』には行きたい人がいる」こと、「『栃木県』には行きたいと思わないが同県の『日光』には行きたい人がいる」こと、「『岐阜県』には行きたいと思わないが、同県の『飛騨高山』には行きたい人がいる」―などだ。「明らかに論理的矛盾がある」と著者。

   「おそらく、長野県、栃木県、岐阜県は『地名』だ。一方、軽井沢、日光、飛騨高山は、地名を超えた『ブランド』である」ために表れるねじれた現象なのだという。インターネットの検索サイトで画像検索をすると、軽井沢、日光、飛騨高山のブランドの検索では、その地域ならではの風景が上位に表示される。「地域らしさがあり、ハーモニーを感じる。検索結果の画像を見るだけで、どの地域か分かる人も多いはず」という。

   一方、長野県、栃木県、岐阜県の画像はというと、上位に表示されるのはいずれもほとんどが地図。軽井沢、日光、飛騨高山の検索結果との違いは、「地名」と「ブランド」の違いを示唆する結果のようだ。

   調査結果によると、消費者が観光に出かけるとき、地域か宿泊施設か、どちらを先に選ぶか問うと、8割が地域を選択。つまり、地域の引力が、その地域のホテルや旅館などの集客力に直結するということ。逆に、設備の素晴らしさで一つのホテルが客を引きつけることができでも、地域そのものに魅力がなければ、地域は元気にならない。「地域振興とホテル新興はイコールではない。観光客に選ばれ、地域が元気になるためにはまず、『地域引力』を生み出すことが不可欠」なのだ。

   「観光」がテーマではあるが、顧客獲得を目指すビジネスなら異業種でも参考になりそうな「教科書」だ。

「地域引力を生み出す 観光ブランドの教科書」
岩崎邦彦著
日本経済新聞出版社
税別1600円

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